■薬剤師は一次医療提供者‐テクニシャンとの“競争”も
ワークショップでは、カナダから薬剤師による実務研究を推進しているツユキ氏、薬局薬剤師の一方でサスカチュワン大学でOTC薬を用いた薬物治療の講義を担当するジェフ・テイラー教授が招聘され、講義やケーススタディをもとにした討論が行われた。
ツユキ氏は、カナダの薬剤師をめぐる現状を紹介すると共に、拡大する薬剤師業務の問題点などを概説した。薬剤師数は現在3万5000人と日本の約8分の1、薬局数は8870軒で約6分の1、薬大数は10校と約7分の1、学生数も1157人で約10分の1(6年制定員ベース)程度。
カナダ医療法によって、医療サービスは包括的に提供されるが、運営は州(13種の異なるサービス)に任される。家庭医制度ではあるが、「医師自体が少ないため、薬剤師は一次医療の提供者と捉えられている」とし、日本とは初期医療の環境が大きく異なっている。
医療制度の運用が州によって異なるが、薬剤師の業務範囲としては、[1]緊急時の処方リフィル[2]処方の更新と延長[3]剤形や製剤の変更・代替調剤[4]軽医療として処方薬の処方[5]処方薬治療の開始[6]臨床検査の依頼と評価[7]注射による薬物投与――を挙げた。
ただ、これらの範囲も州によって違い、業務に対する支払いは、0~20、26$など、州によって様々だという。
注射による薬物投与は筋注、皮下・皮内注、静脈注射まで多様だが、最も一般的なのはインフルエンザワクチンで、例えば、ブリティッシュコロンビア州では全体の1割(10万件)以上が薬局で接種されたという。
アルバータ州では、患者の状況に応じ、処方医への通告義務はあるが、薬剤師による用法・用量・剤形変更が可能。また、処方権については、最低で2年間の経験があり専門医の推薦などを踏まえ、処方権(APA)の取得が必要となる。処方決定による結果への法的責任も当然生じる。
また、テクニシャンも制度化された職業になっており、薬剤師の「直接指導」でなくても、[1]処方薬の調製[2]調剤したものの最終チェック[3]処方者の口頭による処方箋を受け取ったり記述する――ことなどが可能となっている。
薬剤師は、▽患者の評価▽適切な薬物療法▽薬物に関連した問題点の指摘▽薬の患者への説明や治療結果のモニタリング――の責任を持つ。「これらは薬剤師が調剤よりも患者ケアに役立っていることを意味するが、薬剤師自らがその役割を果たしていかないと、テクニシャンに業務を奪われてしまうことになる」と指摘。業務が拡大しつつも、テクニシャンとの間で厳しい存在競争に晒されている一面もある。
なお、「薬局業務は薬の供給から患者ケアへと変化しているが、薬剤師が変化についていけない問題点もある。薬剤師教育や新たな薬局薬剤師の文化を検討する必要がある」と、変化の途上にあることを示すと共に、自分自身は「新しい業務が患者利益になるエビデンス作りを進めている。多くの薬剤師が、薬学実務研究に参加することが必要で、今後より大きな責任を担っていくための研究を行っている」と、実務を進める中でその成果をエビデンスとして示していく重要性を説いた。
■薬局は処方薬が主流に‐消費者の使用状況に不安
テイラー氏は「軽医療でどのようにOTC薬を使うか」として、多様な疫学的データなどを基に、カナダにおけるOTC薬の適用状況、いくつかの症候(症状)ごとの処方薬とOTC薬の使い分けのあり方などについて講演した。
カナダでは、ほとんどのOTC薬が薬局で販売されているが、この30年ほどの間にアメリカ型のドラッグストアが参入している。ただ、イギリスやオーストラリアなどと同様に薬剤師のみが扱えるOTC薬がある。しかし、多くの薬剤師がOTC薬よりも処方薬に力を入れているため、その収入の多くが処方薬に関連しているという。
質疑でテイラー氏は、自らの薬局でも処方薬に関わる業務が中心だが、実務研究なども踏まえ、「一般の消費者の医薬品使用に大きな不安がある」として、あえて時間を作り、消費者のOTC薬に関わる相談等に応じている現状を紹介した。
また、中小薬局の生き残りに関しては、「安価な医薬品を求める人は大規模店に行くが、大規模店(の進出)はもうピークだと思っている。中小店舗の役割が消えることはない。ただ、サービスに差がないと、安い方に消費者が動いてしまうと思う」とし、良質な患者サービスをいかに提供するかが鍵になることを強調した。