精子の走化性
筑波大学下田臨海実験センターは、精子が卵子を目指して行う方向転換の仕組みを海藻ホヤで明らかにした。受精に欠かせない「精子走化性」。精子が卵子に引き寄せられる現象はほとんどの動植物に共通する。卵子が誘引する物質を出し、精子が濃度勾配を感知して接近するものと考えられている。
精子は直進運動とターン運動を繰り返して移動する。べん毛が上下対称の波を伝えると直進、非対称の波でターン。後者のとき、精子内のカルシウムイオンが上昇して、運動方向が変わるのだが、そのメカニズムは不明だった。べん毛には繊維構造の「微小管」と分子モーターの「ダイニン」がある。ダイニンが微小管を動かしてべん毛運動が発動する。
精子を制御するタンパク質
研究グループは3年前、ダイニンに結合するカルシウム結合タンパク質をホヤで発見、「カラクシン」と命名した。今回の研究で、カラクシンが精子の走化性を制御していることを突きとめた。
カラクシンの働きを妨げると、精子はターン運動ができず卵子には近づけない。非対称波が伝播しないからだ。また、高濃度のカルシウムとカラクシンが存在すると、ダイニンは微小管の動きを抑える。つまり、カラクシンが分子モーターにブレーキをかけ、精子の方向転換を調節する。
ヒトの走化性メカニズムが解明されれば、不妊治療や避妊薬の開発につながる可能性もあるという。
加えて、今回の成果は「繊毛病」の原因究明とも無関係ではない。体内で重要な役割を果たす繊毛だが、異常が生じると水頭症・気管支炎・腎炎などが発症する。これらが「繊毛病」。全身の繊毛にカラクシンは存在し、カルシウム依存の運動を調節していると考えられる。研究の進展を期待したい。
▼外部リンク
筑波大学プレスリリース
http://www.tsukuba.ac.jp/