読売新聞社が報道した「iPS心筋を移植」「iPS実用化への加速」などの見出しで報じた記事を同社はいずれも誤報と断定。13日(読売新聞WEB:10月13日07時01分)に「おわび」として誤報記事を掲載。
同様に「iPS細胞を使った移植手術を実施」と記事を配信した共同通信社も12日夜、「事実無根だったことが分かった」との記事を配信。編集局長名のおわびコメントを出した。
産経新聞も11日に掲載した記事「iPS初の臨床応用 心筋細胞作り患者6人に移植」を誤報とし14日「おわび」記事を掲載。
一方、朝日新聞、毎日新聞、日経新聞は記事化を見送った。
iPS細胞(人工多能性幹細胞)で山中信弥京都大学教授(50)がノーベル医学・生理学賞を受賞し世界中が喜びに湧いていた矢先、読売新聞は、米ハーバード大学客員講師を名乗る森口 尚史(48)氏が世界で始めてiPS細胞を臨床応用しiPS細胞から作った心筋細胞を移植し心不全を治療したと報じ、米国で開かれる国際会議で、この臨床結果を発表する予定としていた。
この読売新聞の報道に対して、Twitter上では早くから研究自体を疑問視する声が多く上がっていた。
「このような実験がアメリカでできるとは考えづらい。」「発表内容の画像はインターネットから取得できる」「ただのねつ造であることを祈る」など、感想なども入り混じり、マスコミの報道姿勢だけでなく発表内容についてもその検証が行われる結果となった。
森口氏の論文の「共同執筆者」とされる大学講師は、森口氏とは約5年あっていない、論文に名前が使われている事もしらなかったと語った。また、同氏の研究に関連するいかなる臨床研究もハーバード大及びマサチューセッツ総合病院の倫理委員会によって承認されていない事も分かった。
さらに、森口氏は、「東京大学医学部iPS細胞バンク研究室に所属」と称していたが、東大によると、実在しない研究室と否定。同氏が東京医科歯科大学と共同研究していた事実も、同大によって同じく否定されている。
このように、時系列で経緯を並べれば、実在する機関や実名がいくつも出てくるのがわかる。それは確認できるポイントが何回もあった事を意味する。いわゆる「裏取り」すれば誤報を防げた可能性があったわけで報道機関が功を焦りすぎた可能性は否定できない。
以下の内容が新聞一面を飾った内容であるが読売新聞社によって誤報であることが発表されている。
現在のところ男性患者は、拒絶反応はなく心機能は徐々に回復し、日常の生活を送っているというものであり、その後も5人の患者に移植を行ったが、いずれも健康状態に異常は見られない。
今回の発表が、いわゆる捏造であったかは、森口氏自身認めておらず、現時点では断定できない。だが、PubMedで「Hisashi Moriguchi」で検索すると27件ヒットするが、いずれも特定の論文に対するコメントにすぎない。同氏が本当に臨床応用するほどのiPS細胞の研究者であったのか?、現時点では疑問が残る。
今回の山中教授によるiPS細胞の発見は基礎研究の重要性が改めて見直された面もある。単なる後追いでは本物を超えることは出来ないのは明白だろう。
森口氏は近日中に帰国が予定されている。今回の事件が同氏の資質の問題なのか、あるいはもっと別な背景が存在するのか、真実の解明が急がれる。
▼外部リンク
YOMIURI ONLINE【おわび】
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/
iPS報道、不十分な裏付け反省 共同通信がおわび
http://www.47news.jp/CN/201210/CN2012101301001188.html
msn産経ニュース <おわび>iPS初の臨床応用の記事について
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/121014/crm12101401340001-n1.htm
読売新聞のiPS細胞の誤報から論文の捏造疑惑が浮上しました(togetter)
http://togetter.com/li/388736
PubMed「Hisashi Moriguchi」で検索結果
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=Hisashi%20Moriguchi