今まで解剖でしか診断法のなかった“アルツハイマー病”も、近年の目覚しい進歩によってメスを使わずに診断できるようになった。
昨年、リンダ・ダンガードさん(56歳)はその診断法のひとつ脊椎穿刺法によって、脳の中に“アルツハイマー病”の特徴である斑点(プラーク)や、もつれ(タングル)に由来する脳脊髄液の変質が見つかり「初期のアルツハイマー病の可能性がある」と診断された。
その後リンダさんは、運転免許証を失い、多くの友人を失い、今までの自信をほとんど失ってしまった、と夫・コリン(70歳)さんはいう。
(アルツハイマー病の)患者にとって、この診断は何の役にも立たない。今思えば、妻に検査を許した事が人生最大の過ちだったとコリンさんは当時のことを悔やむ。
実際、ふつうに日常生活を送っている65歳以上の20~30%が脳にプラークを持っている。つまり、プラークを持った人が必ずしも“アルツハイマー病”を発症するかどうかは現在明らかになっていないのである。
熊本県西部の天草市に住む宮崎記代子さん(70歳)の夫、修さん(70歳)は、2002年5月、アルツハイマー型認知症と診断された。しかし、修さんの病気の兆候は3年前頃から現れていたという。ではなぜ、受診が遅れたのだろうか。
それは当時、修さん本人が受診を拒否したことと、もうひとつは、どの病院へ行けばよいのか分からなかったからだという。結果、修さんは診断時には認知症の意味さえわからない状態にまで病気は悪化していた。
宮崎さんは「早めに受診すれば、もう少し進行を抑えられたかも」と悔やむ。
リンダさんの姉妹、ドーン・コーヒーさんは、「私たちは昔からずっと親友同士で、(リンダさんを)心から愛している。ただ彼女は悪くなっているし、(夫は)それを否定する」。今、このリンダさんをめぐる意見の違いが家族間に亀裂を生じさせている。
ただリンダさんのケースでは、「彼女に毎日をできるだけ幸せに生きていてほしい」と家族全員がリンダさんの幸せを願っているところは同じだという。
実際、“アルツハイマー病”患者をもつ専門家は、病気告知の後、家族の意見が相違するのはよくあることだという。それを家族がどう向き合い、乗り越えるかが重要なのかもしれない。
またある専門家は、活動的に社会とのつながりを持つことが患者にとって重要だと言う。実際、修さんを世話する宮崎さんは、自らの経験から認知症患者を持つ家族どうしで交流し、励まし合う「天草認知症家族の会」を発足。同じ患者を持つ家族同士のつながりを築いている。
一方で、宮崎さんは、「自分に何かあったら、夫はどうなるのか」という不安もあるという。
▼外部リンク
ウォール・ストリート・ジャーナル 日本版
「アルツハイマーめぐるジレンマ 治療法のない病の早期発見、告知すべきか」
読売新聞
「認知症(5)診断後の受け皿足りず」