第59回日本心身医学会で北里大学・宮岡教授が指摘
北里大学精神科教授の宮岡等氏は、6月に名古屋で開催された第59回日本心身医学会総会ならびに学術講演会で成人の発達障害について講演し、現状では自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)ともに「成人での症候学は未成熟。診断に関する特定の考え方に心酔するのは危険」と指摘。成人での診断時は幼少期の状況などを丁寧に聴取することが必要、との認識を示した。
宮岡氏は「そもそも現状ではASDもADHDも診断基準は子供での診断をベースに記述してあり、成人の診断ではそのまま適応できない」と強調。とりわけASD診断では、イギリスの精神科医であるローナ・ウィングが唱えた、「対人交渉の質的問題」、「コミュニケーションの質的問題」、「イマジネーション障害」の三障害を基準に据えて診断に臨むことが望ましいとの見解を示した。
そのうえで宮岡氏は「成人になると知識も蓄積され、その行動が修正されており、子供を軸とした症状が成人ではどのようにモディファイされているかは診断基準などではほとんど明言されていない」と指摘。自身のこれまでの症例検討などから、対人交渉面では子供での「見知らぬ人に突拍子もない言葉をかける」、「必要以上に近づいて話しかける」、「人見知りがなく誰にでも抱っこされる」、「母親の後追いが乏しい」、「あやした時の反応が乏しい」などといった症状が、成人では「親密な付き合いが苦手」、「極端に人に気を遣う」、「極端な丁寧語を用いる」、「心理的にも物理的にも極端になれなれしい」、「ヒトと共感しない」、「同年齢の仲間関係を作れない」、「独り言が多い」などの形になってくると説明した。
また、コミュニケーションの質的問題では、子供の場合、「興味がある言葉を覚え、日常用語である『パパ』『ママ』などとは言わない」、「帰宅したのに『ただいま』ではなく『お帰り』という」などの症状を見せることがあるが、成人では、「常同的で反復的な言葉の使用」、「独特の言い回し」、「例え話や冗談が分からず、字義通り受け取る」、「会話の仕方が形式的で抑揚なく話す」、「一方的に話す」、「身振り手振り表情が読み取れない」といった形で表出するとした。
さらに成人ASDでのイマジネーション障害では、「特定のことに必要以上に詳しい」、「自分なりの日課手順があり、変化変更を嫌がる」、「自分の世界にこだわり、融通が利かない」、「時間の予測や見通しが立てられない」、「想定外のことが起こると思わぬ反応をする」といった症状に着目すべきとの見解を示した。
また、これらの障害以外では、聴覚過敏などが典型的な症状になるとし、「いずれにせよどれか特定の症状で診断できるわけではなく、こうした種々の症状の『合わせ技』での診断が必要になる」(宮岡氏)と述べた。
メディアの影響で「自分もそうであるかのように思い込んでいる」人も
同時に宮岡氏は「例えば、学生時代に学習障害が未診断にもかかわらず、成人になって学習障害が顕在化することは極めてまれであり、小中学校時に、皆勤賞で友達も多かったのに高校で人付き合いが悪くなったというASDはいない」と語り、未成年時代の状態が診断時の大きなファクターになると強調した。ただ、「成人の場合は親がすでにいないなどの問題があり、診断を難しくしている」と吐露した。
また、問診時の注意事項として「最近は、発達障害に関する関心の高まりとともに、関連本などで症状を読み、何となく自分も経験したかのように思い込んでいることもある。本に記述されている典型症状をすらすらと訴える場合は逆に疑うべき」と警告した。
一方、現在の医師側の診断についても(1)一部産業医が自分で手に負えない事例を発達障害という言葉で片付けている、(2)一部精神科医の疾患知識が未熟で統合失調症などと誤診している、(3)ADHDでは新薬の登場とともに過剰診断傾向がある、と批判。
結果として、本来早期発見するべき学校カウンセラーなどの段階での患者拾い上げが過少となり、成人期の産業医の患者拾い上げが過剰になっていると、問題意識を示した。
その対応では「成人ASDの場合、デイケアなどの効果はまだ不明。むしろ本人の特性を変えるのではなく、職場では産業医などを総動員して本人が働きやすい環境を整備する方が効果的」と提言した。
▼関連リンク
・第59回日本心身医学会総会ならびに学術講演会