細胞死を起こす変異型SOD1とDerlin-1の結合
東京大学大学院薬学系研究科・薬学部は7月18日、約16万種類の化合物の中から抗酸化酵素「SOD1」と小胞体膜タンパク質「Derlin-1」の結合を阻害する化合物を見出し、改良した化合物が筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態改善効果を示すことを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究科の圓谷奈保美大学院学生(研究当時)、本間謙吾特任助教(研究当時)、一條秀憲教授らの研究グループが、東京大学創薬機構と共同で行ったもの。研究成果は「Nature Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
一條教授らは、これまでの研究によりALS患者で発見された変異型SOD1が、小胞体に存在するDerlin-1というタンパク質と結合することを明らかにしている。細胞内小器官である小胞体の重要な機能のひとつとして、膜タンパク質や分泌タンパク質の品質管理が挙げられる。小胞体内で正しい立体構造を取れなかったタンパク質は分解されて取り除かれることが知られており、Derlin-1はこの過程に重要な役割を担っている。この研究で、変異型SOD1がDerlin-1と結合するとDerlin-1が正常に機能できなくなり、異常な構造のタンパク質が小胞体内に蓄積した結果、運動神経細胞死が引き起こされることが明らかとなっていた。
モデルマウスへの投与で発症時期遅延と生存期間延長を確認
今回研究グループは、変異型SOD1とDerlin-1の結合を迅速かつ安定的に評価できる実験系を樹立。この実験系を利用し、同大創薬機構が所有する約16万化合物の中から、変異型SOD1とDerlin-1の結合を阻害する化合物の探索を行い、この結合を顕著に阻害する化合物を見いだすことに成功した。
結合阻害様式に関する解析を行った結果、この化合物は変異型SOD1のDerlin-1との結合部位と相互作用することで、両者の結合を阻害していることが判明。また、この化合物を改良することで、細胞内で活性を発揮できる誘導体の作出に成功した。改良した化合物を用いて、SOD1とDerlin-1の結合阻害がALS病態に対して改善効果を発揮するか検証したところ、同化合物はSOD1遺伝子に変異を持つALS患者由来iPS細胞から作製したALS運動神経細胞の細胞死を抑制。さらに、変異型SOD1を発現するALSモデルマウスに同化合物を投与すると、投与していない群と比較して病気を発症する時期が遅延し、生存している期間が長くなったという。
この結果は、変異型SOD1とDerlin-1の結合を阻害することがALS病態の改善に繋がることを示唆している。また、今回見出した化合物が100種類を超える変異型SOD1とDerlin-1の結合を全て阻害できたことから、非常に多くの変異型SOD1の毒性を抑えることができると考えられる。今後は、この化合物をさらに改良していくことにで、発症機構に基づいたALS治療薬の開発に繋がることが期待される、と研究グループは述べている。
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