低酸素環境にあるがん細胞に高い治療効果を発揮
量子科学技術研究開発機構は7月17日、量研放射線医学総合研究所の吉井幸恵主幹研究員らが日本発の放射性治療薬64Cu-ATSMの製剤化に成功し、国立がん研究センターの栗原宏明医長、成田善孝科長らと共同で悪性脳腫瘍患者対象とした第1相臨床試験を開始したと発表した。
悪性脳腫瘍は、現在有効な治療法が乏しく、新規治療法の開発が望まれている。既存の治療が効きづらい原因として、腫瘍内部が低酸素化し、化学療法や放射線治療が効きにくくなることが知られている。このことから量研放医研では、低酸素環境にあるがん細胞に高集積し高い治療効果を発揮する放射性治療薬「64Cu-ATSM」を開発。がん細胞株移植(CDX)モデルなどを用いた非臨床試験で64Cu-ATSMが低酸素状態にある悪性脳腫瘍の増殖を抑制し、生存率を改善することを示した。
日本初の国産放射性治療薬を用いた治験に
量研放医研と国がんは、悪性脳腫瘍に対する新治療薬として日本発の放射性治療薬として、64Cu-ATSMの臨床試験開始に向けた共同開発を行ってきた。その結果、量研放医研は、治験目的で使用する64Cu-ATSMの製剤化と安定的な製造に成功。国がんにおいて、悪性脳腫瘍(膠芽腫、原発性中枢神経系悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍、悪性髄膜腫)患者を対象に、64Cu-ATSM治験薬を使用した第1相臨床試験を開始した。
今回の試験は、64Cu-ATSMを治療の目的で、世界で初めて人へ投与する「ファースト・イン・ヒューマン試験」となる。これまでに、日本で治験用に放射性治療薬を製造・供給した事例はなく、今回が初となるとともに、日本初の国産放射性治療薬を用いた治験の実施となるという。
64Cu-ATSM治療は、放射性治療薬を投与して体内から低酸素化した治療抵抗性腫瘍を攻撃する、新しいメカニズムの治療法。今回始まった第1相臨床試験や今後行われる臨床試験で、64Cu-ATSMの安全性・有効性が示されれば、悪性脳腫瘍患者に対する新たな治療の選択肢を提供できる可能性がある、と研究グループは述べている。
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・量子科学技術研究開発機構 プレスリリース