確立されていない着床障害に対する有効な診断・治療法
東京大学医学部附属病院は6月19日、胚が子宮内膜に浸潤する着床のメカニズムを解明する研究結果を発表した。この研究は、同大医学部附属病院女性診療科・産科の廣田泰講師、藤田知子特任研究員らと、同循環器内科の武田憲彦助教、同大大学院医学系研究科産婦人科学講座の藤井知行教授、大須賀穣教授らによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Investigation」オンライン版にて公開された。
画像はリリースより
着床は、子宮内に入ってきた胚が子宮内膜と接着する過程(胚接着)と、その後に胚が子宮内膜に入り込む過程(胚浸潤)を経て成立する。着床の成立には、これらの過程において子宮と胚の精妙な相互作用が必須と考えられてきたが、その仕組みの詳細はこれまで明らかにされていなかった。また、着床障害は生殖医療の大きな課題とされているが、有効な診断・治療法は確立されていなかった。
着床期の子宮で発現するHIF1α・HIF2αに着目
研究グループは、低酸素で誘導される転写因子である低酸素誘導因子(HIF)を子宮特異的に欠損したマウスを作成。HIFの構成要素のうち、着床期の子宮での発現が報告されているHIF1αおよびHIF2αに着目し検討した。
その結果、HIFが子宮内膜で作用して胚浸潤の過程を調節していること、子宮内膜間質のHIF、とくにHIF2αが重要な働きを持っており、子宮内膜管腔上皮をはがして子宮内膜間質を露出させ胚が子宮内膜間質に入り込みやすくすると同時に、子宮内膜間質が胚とじかに接することによって胚が生存できるよう働きかけていることを明らかにした。
今回の研究結果から、子宮のなかで起こる着床の仕組みが解明され、着床障害による不妊の一因が明らかとなった。研究グループは、「今後ヒト子宮内膜におけるHIFの作用を検討することで、今回の研究が着床障害の新規診断・治療法の開発につながっていくことが期待される」と述べている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース