最適な薬の探索が短期間かつ安価で可能になると期待
京都大学は6月6日、鶏卵の中にヒトの患者由来の卵巣がんを再現することに成功したと発表した。この研究は、同大高等研究院物質細胞統合システム拠点(iCeMS)の玉野井冬彦特定教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載された。
画像はリリースより
がんは、同じ種類のがんでも個々の患者やそのステージによって違いがある。そのため、十分な効果を期待するためには、それぞれの患者に適した抗がん剤を個別に選択する必要があるが、現在のがん治療では、同じ種類のがんに対しては同様な抗がん剤が使われることが一般的。個別医療を可能にするには、患者のがんを取り出し、それぞれに適した抗がん剤を見つける必要があるが、これを可能にするシステムは、現在いくつかの方法が提唱されているものの、それぞれに問題点がある。
今回、研究グループは、がんの個別化医療を可能にするがんの鶏卵モデルを開発。鶏の有精卵の殻に穴を開け、胚を取り巻く漿尿膜上に細かく砕いたヒト卵巣がんを乗せると、3~4日後には同じ特徴を保持したがんが鶏卵内に再現された。マウスでのがんの再現には数週間を要するため、これは大きな短期化だ。この鶏卵モデルを使用した場合、実際の患者のがんを再現して、そのがんに最適な薬を探すことが、1週間ほどで、安価でできるようになる。
副作用を最小限に抑えるナノ粒子「B-PMO」の有効性も確認
さらに、研究グループは、この鶏卵モデルに研究グループが開発した多孔性ナノ粒子「B-PMO」を使って抗がん剤を投与する実験実施。B-PMOの細孔中に抗がん剤ドキソルビシンを詰めて投与した結果、2~3日でがんが消滅したが、胚の臓器は健康なままだったという。これは、B-PMOががんにだけ選択的に集まって蓄積したために、周囲の臓器に影響を与えず、抗がん剤の副作用を最小限に抑えるのに役立ったためとしている。
今回の研究では、卵巣がん鶏卵モデルとナノ粒子B-PMOの2つの有効性が確認された。鶏卵モデルは、さらなる研究により個別医療の実現に役立つ可能性が期待されるという。また、ナノ粒子B-PMOについては、今後、副作用の少ない抗がん剤治療に役立つことや、その高いがん蓄積能のメカニズムを検証することで、さらに高いがん蓄積能を持つ粒子の開発に役立つことが期待されると研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果