痩せ型の患者が多い自閉症の原因タンパク質に着目
九州大学は5月16日、自閉症の原因タンパク質で、クロマチンリモデリング因子である「CHD8」が、脂肪分化や脂肪細胞における脂肪滴の蓄積に非常に重要な役割を持つことを発見したと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授、名古屋市立大学薬学研究科の喜多泰之助教・白根道子教授、金沢大学医薬保健研究域医学系の西山正章教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Cell Reports」で公開された。
画像はリリースより
CHD8は、自閉症患者において最も変異率の高い遺伝子。同遺伝子に変異を持つ自閉症では、コミュニケーション異常や固執傾向といった自閉症特有の症状のほかに、痩せ型の人が多いという特徴が報告されている。このことから、CHD8タンパク質が神経発生だけではなく、代謝機能や脂肪分化にも重要な機能を有していることが示唆されてきたが、その具体的なメカニズムは未解明な部分が多かった。
CHD8阻害剤の開発による肥満治療の進展にも期待
研究グループは、脂肪幹細胞特異的にCHD8遺伝子を欠損させたマウスを新たに作成。このマウスの脂肪分化や脂肪滴の蓄積が抑制されていることを発見した。また、脂肪細胞における同遺伝子の機能をトランスオミクス解析という新技術で調べたところ、C/EBPβという脂肪細胞分化に重要なタンパク質と協調して、脂肪分化や脂肪滴の蓄積に関わる脂肪関連遺伝子の発現を調節していることが明らかになった。さらに、マウスの同遺伝子を人工的に欠損させると、高脂肪餌を食べても太りにくくなることがわかったという。
今回の研究結果は、CHD8が神経分化だけではなく、脂肪分化にも重要な因子であることを示すと同時に、CHD8変異を持つ自閉症の病態に新たな知見となる。また、脂肪細胞でのみ同遺伝子の発現を抑制することで、肥満を抑えることができる可能性が示された。研究グループは今後、「CHD8をターゲットとした阻害剤の探索を行うことで、肥満治療薬への応用を目指していきたい」と述べている。
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