皮弁移植術の成功には皮下脂肪内の血管走行把握が必要
京都大学は5月1日、光超音波トモグラフィによる皮膚の精細な3D血管地図の作成に成功したと発表した。この研究は、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一環として、同大学の戸井雅和教授、齊藤晋講師、津下到特定病院助教らの形成外科チームにより行われたもの。研究成果は、米形成外科学会の学術誌「Plastic and Reconstructive Surgery」に掲載された。
画像はリリースより
がんの切除や事故による怪我などで組織に欠損が生じた場合、体の別の部位から皮膚や皮下組織と血管を付けた状態で採取し、欠損部の近くにある血管と吻合させることで組織の再建を行う「遊離皮弁移植術」を行う。近年では、採取部の後遺症が少ないという理由で、大腿の外側の皮弁がドナーとしてよく選択されている。顔や手などの形を精巧に再現しようとすれば、より薄い皮弁が必要となるが、薄くすればするほど血管が損傷されるリスクが高くなるため、経験の豊富な医師でも危険性の高い手術だ。
こうした皮弁移植術を成功させるためには、皮下脂肪内の血管走行を把握することが必要不可欠だ。超音波検査は簡便だが、脂肪内の血管には不向きとされ、また、CTやMRIは血管を映し出すことはできるものの、造影剤のアレルギーや被ばくが問題となる。このようなことから、簡便で安全かつ高精度な血管撮影方法が望まれていた。
赤血球から発生した超音波を探知して血管を映像化
研究グループは、人体に害がないレベルの近赤外線光のレーザーを照射し、赤血球から発生した超音波を探知して血管を映像化する「光超音波トモグラフィ技術」を用いて大腿部皮下の血管を描出することに成功。また、大腿皮膚面を自動抽出し、皮膚からの距離によって血管を削除したり、強調したりできる画像閲覧システムを開発し、脂肪内の直径0.5~1ミリの細かい動脈を明瞭に描出し、筋膜を貫通した穿通動脈が、皮下脂肪内で水平方向や斜めの方向に樹木の枝のように広がって分布する様子を鮮明に描き出すことができたという。さらに、深さの情報をもとに血管を色分けすることにより、3次元の情報を含んだ皮下血管の血管地図を作成することに成功したとしている。
今回の研究は、光超音波トモグラフィが皮下血管の術前診断機器として臨床応用できる可能性を示している。この技術は、造影剤にアレルギーのある患者や腎機能が悪い患者にも使用することができ、被ばくの恐れもない点で優れており、より優れたがん治療法の創出にもつながるとしている。現在、研究グループはプロジェクションマッピングの技術を用いて皮膚に貼付可能な血管地図シートを作成するプロジェクトを進めており、シートを皮弁手術に応用する臨床試験を行っているという。
▼関連リンク
・京都大学 研究成果