■相次ぐ新薬背景に活用促す
国立国際医療研究センター病院薬剤部は、肝炎治療薬と併用薬の薬物相互作用を検索できるデータベースを構築し、ホームページ上に公開した。経口C型肝炎治療薬が相次ぎ登場し、肝炎治療は外来で可能になるまで進歩した一方、様々な薬剤との薬物相互作用が新たな問題になっている。こうした中、同センター病院が昨年覚書を締結した英リバプール大学のデータベースを翻訳し、1万件以上の薬物相互作用情報を日本語で簡便に調べられるシステムを完成させた。外来の処方箋を受け取る保険薬局に薬物相互作用に対する認識を広めることなどにより、データベースを積極的に活用してもらいたい考えだ。
C型肝炎治療の進歩は目覚ましく、従来のインターフェロン+リバビリン併用療法から、2011年に経口薬の「テラビック」が登場して以来、治療効果は飛躍的に向上。15年には著効率95%以上と驚異的な効果を発揮し、副作用も少ない「ソバルディ」「ハーボニー」が発売され、C型肝炎はわずか8~12週間の治療でウイルスを完全に排除できる治癒の時代を迎えた。
経口薬の登場はC型肝炎の外来治療を可能にしたものの、外来で広く使われるようになると、高齢患者の多くが服用している抗不整脈薬や高脂血症薬など、様々な領域の薬剤との薬物相互作用が問題になってくる。
特にC型肝炎治療では、薬物相互作用によって効果が減弱し、薬剤耐性ウイルスが出現して治療が失敗することが懸念される。その結果、耐性を踏まえた薬剤選択を迫られ、治療のハードルが上がってしまう問題があるため、薬物相互作用を事前に回避することが重要になる。
同センター病院薬剤部の増田純一医薬品情報管理室長は、「肝炎治療薬の場合、薬物相互作用をきちんと確認した上で使わないと、副作用が強くなったり、効果が十分に出ない可能性がある。この部分は、特に薬剤師が中心になって確認していかなければならない」と強調する。
同センター病院は昨年4月に英リバプール大学と覚書を締結し、肝炎治療薬の薬物相互作用データの翻訳とデータベースを構築することで合意した。同大学のデータベースは、米国肝臓学会等のガイドラインでも使用が推奨され、海外で広く活用されている。薬物相互作用のデータも豊富で、薬物代謝酵素による薬物相互作用も記載があるなど、情報量は日本の添付文書の約10倍に上るという。様々な薬剤との薬物相互作用を調べることができるのが最大のメリットだ。
しかし、日本でも以前から一部で活用されていたものの、英語のデータベースであること、海外の商品名で記載されていることなど、日本の医療従事者には使いづらい状況があった。そのため、同センター病院薬剤部は、同大学のデータベースを7カ月かけて翻訳し、日本語版のデータベースを構築。3月28日に公開した。パソコンのみならずタブレット端末やスマートフォンにも対応。病院のDI室や外来診察時、薬局での調剤時にもその場ですぐ検索可能で、医師、薬剤師などの医療従事者が簡便に薬物相互作用を確認できるようにした。
日本語版のデータベースは、661件の薬剤(肝炎治療薬19件、その他の併用薬642件)が登録されている。薬剤は、日本国内の販売名で登録し、商品名と一般名で検索できるようになっている。また、薬物相互作用データは1万2646件が登録され、商品名で併用禁忌や併用注意など詳細な薬物相互作用の内容を抽出し、確認できる。
例えば、併用禁忌に「マヴィレット配合錠」(グレカプレビル/ピブレンタスビル)と「リピトール錠」(アトルバスタチン)という記載で、データベースの内容も日本の添付文書より充実した情報が掲載されている。マヴィレットとリピトールの薬物相互作用に関しても、今回のデータベースでは薬物相互作用に関わっている薬物代謝酵素、最高血中濃度とAUCの増加率など、詳細な情報が記載されているため、危険性を把握しやすいという。
増田氏は「日本の添付文書には使ってはいけない禁忌の情報は載っているが、使ってもいい薬剤や使って問題がなかった薬剤の情報はない。このデータベースには、そうした情報が多く掲載されているので、薬物相互作用をチェックする時に使える薬を確認できるのは非常に便利」とメリットを強調。「日本語で情報提供することにより、多くの人にデータベースを使ってほしい」と幅広い活用を呼びかけている。特に外来で経口薬が多く処方され、院外の薬局で処方箋を応需する機会が増えていることから、薬局での調剤時の薬物相互作用チェックにも活用が期待されそうだ。
今後は、データベースの更新を半年に1回程度行うと共に、国内の添付文書情報を登録し、併用薬同士の薬物相互作用も検索できるようデータベースの充実を図る。さらに、薬物相互作用が複雑な抗HIV薬、抗癌剤など、他の領域に拡大しながら国内の薬物相互作用データベースを発展させていきたい考えだ。