サルコペニアの評価を容易にしたサルコペニアスクリーニング法
熊本大学は4月11日、筋肉量の減少(サルコペニア)を診断する簡単な検査を応用することで、慢性腎臓病患者の将来の心臓血管病発症リスクを予測できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院循環器内科の辻田賢一教授、花谷信介特任助教(現・天草地域医療センター循環器内科副部長)、泉家康宏講師(現・大阪市立大学大学院医学研究科循環器内科学准教授)らの研究グループによるもの。研究成果は「International Journal of Cardiology」に掲載されている。
画像はリリースより
サルコペニアとは筋肉量の減少と筋力の低下を起こす状態であり、心臓疾患や腎疾患、およびがん患者の経過が悪くなると考えられている。研究グループはこれまで、骨格筋の重量を増やすことによって心筋梗塞や腎臓病の影響を減少させる効果があることを明らかにしている。
これまで正確な診断にはCTやMRI検査による筋肉量測定が必要で、日常診療での評価が困難であったが、近年、年齢・握力・ふくらはぎの周囲径から算出されるサルコペニアスコアを用いたサルコペニアスクリーニング法が東京大学の石井伸弥氏らによって報告されたことで、日常診療での評価が容易になった。同研究グループは、心不全患者を対象とした過去の臨床研究で、サルコペニアスコアが心不全の重症度と相関することや、サルコペニアスコアの高い心不全患者が心不全での再入院や心不全による死亡が多いことを報告している。
BNP+サルコペニアスコアでさらに予測能力が向上
同研究グループは今回、同附属病院循環器内科に心臓血管病の評価や治療で入院した慢性腎臓病の患者265名を対象に研究を行った。退院前に測定した握力やふくらはぎの周囲径のデータをもとにサルコペニアスコアを算出し、個々の患者のサルコペニアスコアと、血液検査・心臓超音波検査などの検査結果やその後の病気の経過などとの関連性を、約650日間にわたって調査。その結果、サルコペニアスコアが高ければ高いほど、心臓の疲労を示すBNPの値が高く、また、腎臓のダメージを示すクレアチニンの数値も高い事がわかった。
さらに、それぞれの患者の経過を観察した結果、その後の死亡率や心筋梗塞、心不全、脳卒中などの心臓血管病の発症率が、サルコペニアスコアが高い患者達において、明らかに高い事が判明した。また、BNPにサルコペニアスコアを組み合わせることで、さらに予測能力が向上する事も明らかになり、サルコペニアスクリーニング法の有効性が証明される結果となった。
このサルコペニアスクリーニング法は非常に容易な測定方法のため、どのような医療機関でも日常診療の中で有効活用される事が期待できる、と研究グループは述べている。
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