呼吸器疾患の治療薬としても利用される経口抗菌薬
慶應義塾大学は4月6日、経口抗菌薬(抗生物質)として汎用されているマクロライド系抗菌薬が抗菌作用とは別に持つ、免疫の調整や炎症を抑制する保護的作用の新たなメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大医学部内科学(呼吸器)の別役智子教授研究室の石井誠専任講師、南宮湖共同研究員、同感染制御センターの長谷川直樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「PLOS Pathogens」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
マクロライド系抗菌薬は、日本における経口抗菌薬使用割合が33%を占める、最も使用量の多い抗菌薬(2013年、厚生労働省統計)。マクロライドは、菌を殺したり増殖を抑制する抗菌作用のほかに、免疫を調整したり、炎症をおさえる作用を有することが知られている。この免疫調整作用・抗炎症作用に期待して、すでに臨床においては、びまん性汎細気管支炎に対するマクロライド療法が確立され、5年生存率が42%から91%へと飛躍的に向上。また、気管支拡張症などの慢性下気道感染症に対してもマクロライド療法は用いられ、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪に対する予防効果も報告されている。
このように多くの疾患で抗菌作用以外の免疫調整作用・抗炎症作用を期待したマクロライド療法が汎用されているにもかかわらず、これまでその免疫調整作用・抗炎症作用の詳細なメカニズムはほとんど明らかになっていなかった。
MDSC様細胞が肺や脾臓で約2.5~3.3倍に増加
今回、研究グループは、マクロライド系抗菌薬「クラリスロマイシン」の投与により、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)様の性質を有するCD11b陽性Gr-1陽性細胞(MDSC様細胞)が、肺や脾臓で約2.5~3.3倍に増加することを発見。さらに、その増加したMDSC様細胞が免疫調整作用に主たる役割を果たしていることを、細菌の菌体成分の内毒素によるショックモデルや、インフルエンザ感染後2次性細菌肺炎モデルなどのマウスを用いて解明し、ヒトでもクラリスロマイシンの投与によりMDSC様細胞が増加している可能性が示されたという。
今回の研究により、マクロライド系抗菌薬の免疫調整作用・抗炎症作用の新たなメカニズムが解明された。この成果について、研究グループは、「マクロライドの持つ作用の、免疫調整作用・抗炎症作用に限定して効果を有する新規薬剤の開発につながることが期待される。マクロライドに代わる新薬の創出は世界的な課題である薬剤耐性(AMR)対策にも貢献するものであり、重要な発見と考えられる」と述べている。
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