肺の生活習慣病ともいわれるCOPD
大阪大学は3月29日、独自に作成した慢性閉塞性肺疾患(COPD)モデルマウスの長期にわたる研究から、同マウスが加齢とともにCOPDを進行させるだけでなく、さまざまな老化表現型を示すことを突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の武田吉人助教、熊ノ郷淳教授ら(呼吸器・免疫内科学)の研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
COPDは、21世紀の国民病ともいわれ、世界で2億人、国内では600万人の患者がいると推定されている。気管支拡張剤などの対症療法はあるものの、根本的な治療薬は無く、2030年には世界死因の第3位になるとも予想されている。さらに、喫煙や大気汚染が主な原因で発症するCOPDは、肺の生活習慣病ともいわれ、老化に伴って発症することから老化促進肺ともみなされていたが、COPDと老化の関係についてはほとんど解明されていなかった。
テトラスパニンの発現低下で、抗老化分子の発現も低下
武田助教らは、細胞膜4回貫通型タンパクファミリーで、ヒトでは33種類のタンパクから構成される「テトラスパニン」に着目。テトラスパニンの発現は、炎症性疾患やがんの転移、感染症発症に関与することが知られている。研究グループはこれまでに、肺に高発現しているテトラスパニンのうち、機能と分布の類似した2種類のテトラスパニンCD9とCD81の二重欠損マウスが、ヒトに類似したCOPDモデルになることを見出していた。
今回、この独自に作成したCOPDモデルの長期研究から、同マウスが加齢とともに進行するCOPDだけでなく、COPDに併存するとされる骨粗しょう症、体重減少、さらには白内障、性腺萎縮、脱毛、白内障を含む多様な老化表現型を示し、野生型マウスより3割程度短命となることを明らかにした。さらに、同マウスが多様な老化表現型を示すメカニズムとして、テトラスパニンCD9とCD81の発現が低下すると、抗老化分子として知られるサーチュイン(SIRT-1)の発現が低下することで、種々の細胞死(アポトーシス)や慢性炎症を誘導することを突き止めたという。
これらの発見により、肺疾患において重要な機能をしているテトラスパニンが、老化鍵分子の発現を維持することで、「老化ブレーキ役」としても働いていることが示された。テトラスパニンの発現や機能を亢進させる薬剤を開発することで、COPDだけでなく老化進行を抑制する薬剤の開発に繋がることが期待される、と研究グループは述べている。
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