網羅的診断パネルで遺伝学的背景と臨床所見を解明
東京医科歯科大学は3月27日、嚢胞性腎疾患の網羅的診断パネルの作成によって家族歴のない成人多発性嚢胞腎患者の遺伝学的背景と臨床所見の解明を行い、その内容を発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野の内田信一教授、蘇原映誠准教授、森崇寧助教、藤丸拓也大学院生らの研究グループが、虎の門病院腎センター内科と共同で行ったもの。研究成果は「Clinical Genetics」に掲載されている。
画像はリリースより
多発性嚢胞腎は、腎臓に嚢胞が多発することで腎機能が低下する遺伝性の腎臓疾患。日本には約3万人の患者がおり、透析患者の2.5%を同疾患が占め、難病にも指定されている。
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、ほとんどが成人になって発見されて病気が進行する。この疾患は、PKD1とPKD2という遺伝子の異常が原因とされており、家族にADPKD患者がいる場合は画像検査で腎臓の嚢胞の数を調べるだけで診断できる。その一方、家族内発症がない場合、臨床の現場ではADPKDとして診療されることが多いものの、その他の嚢胞性腎疾患の可能性も否定できず、正確な遺伝学的背景は十分に明らかになっていなかった。
PKD1/2変異患者には臨床的特徴も
研究グループは、次世代シークエンサーを用いて嚢胞性腎疾患の原因となる69個の遺伝子を網羅的に解析できる遺伝子診断パネルを作成。家族内発症がない成人の多発性嚢胞腎患者53名を対象に、遺伝学的背景と臨床所見の関係を調査した。
その結果、53名中32名にはPKD1またはPKD2遺伝子の変異を認めたが、3名の患者は、ADPKD以外の嚢胞性腎疾患と遺伝学的に診断された。さらに、PKD1/2に変異のある患者とない患者を比較すると、変異のある患者の腎臓が大きく、肝嚢胞が多発し、血圧が高いという臨床的特徴があることが明らかになったという。
これらの結果は、研究グループが作成した嚢胞性腎疾患診断パネルによる遺伝学的診断の有用性を示している。研究グループは「今後、家族歴のない多発性嚢胞腎の診断だけでなく、薬剤治療適応の決定や遺伝子カウンセリングなどへのさらなる臨床的な活用が期待される」と述べている。
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