不明な部分が多いSGLT2阻害薬の腎機能を保護機序
京都府立医科大学は3月13日、糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬(イプラグリフロジン)が腎臓を保護する作用を有することを確認し、そのメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科腎臓内科学の亀﨑通嗣医員、草場哲郎学内講師、および循環器内科、糖尿病内科の共同研究グループによるもの。研究成果は、科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
全世界で糖尿病の患者は増加しており、国内においても血液透析導入の原因疾患の第1位となっている。透析医療は治療にかかる拘束時間など患者本人の負担となるだけでなく、医療費への影響も考慮すると、その対応は急務だ。しかし、糖尿病性腎症による慢性腎不全の進展を防ぐ治療法は乏しく、効果的な治療法の開発が望まれている。
SGLT2阻害薬は、腎臓からブドウ糖を排泄させることで血糖値を下げる作用を発揮する糖尿病治療薬。国内では2型糖尿病を効能、効果として販売されている。糖尿病の患者に対して、SGLT2阻害薬を用いた臨床試験では、心筋梗塞や脳卒中などの動脈効果に起因する疾患の発症を抑制しただけでなく、尿タンパクの減少や腎機能の悪化を防ぐなどの糖尿病性腎症の進行を予防する効果も認めた。しかし、SGLT2阻害薬による腎臓の機能を守る機序については未だ不明な部分が多く、研究グループは、マウスを用いた実験によりその機序の解明を試みたという。
腎臓の糸球体と尿細管における酸化ストレスを軽減
今回、研究グループは、アステラス製薬株式会社より原末を供与された、SGLT2阻害薬「イプラグリフロジン」を糖尿病マウスに2か月間、毎日投与した。その結果、血糖値は同剤の投与により低下し、糖尿病性腎症の病状の指標である尿タンパク量を改善。糖尿病性腎症では、血糖値が高くなることで身体の中の酸化ストレスが上昇していることが知られているが、今回の実験では、イプラグリフロジンが腎臓の糸球体と尿細管における酸化ストレスを減らすことを見出したという。
また、糖尿病患者では、糸球体の機能が過剰に働くことで、結果的に腎機能の悪化を早めることが知られている。イプラグリフロジンは、この糸球体の過剰な働きを抑える効果も見られた。さらに、糖尿病性腎症では、尿にブドウ糖が多く排泄され、より多くのブドウ糖が再び吸収されることで大量のエネルギーを消費することで腎臓内の酸素が不足する。イプラグリフロジンは、尿に含まれる糖が再び身体の中に戻るのを防ぐ効果があるため、結果として腎臓内の酸素状態を改善したとしている。
今回の研究成果について、研究グループは「今後は同薬が多くの患者に広く用いられることで、糖尿病による腎臓病が軽減され、結果として糖尿病性腎症による透析患者数が減少することが期待される」と述べている。
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