修復幹細胞として働くことが示唆されているMuse細胞数
岐阜大学は3月6日、ウサギ急性心筋梗塞モデルに静脈内投与した生体内多能性幹細胞「Muse細胞」が梗塞組織に選択的に遊走・生着し、機能的な心筋細胞に自発的に分化することで心筋梗塞サイズの縮小と心機能の回復がもたらされ、他家細胞であっても長期間にわたり効果が持続することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環病態学分野の湊口信也教授の研究グループと東北大学大学院医学系研究科細胞組織学分野の出澤真理教授の研究グループによるもの。研究成果は「Circulation Research」に掲載されている。
画像はリリースより
Muse細胞は骨髄、末梢血、あらゆる臓器の結合組織に存在する腫瘍性を持たない生体由来の多能性幹細胞。市販の間葉系幹細胞(MSCs)や線維芽細胞にも数パーセントの比率で含まれている。脳梗塞、腎不全、肝障害、皮膚損傷などさまざまな傷害モデルで、分化誘導せずにそのまま静脈投与、あるいは局所投与することで有効に傷害部位に生着し、組織を構成する細胞に自発的に分化することで修復することが報告されている。また、脳梗塞、心筋梗塞の患者では、発症後急性期に末梢血内のMuse細胞数が上昇すること、有意に上昇した患者は慢性期において機能回復傾向が高いことが統計的有意差をもって示されており、生体内でMuse細胞が修復幹細胞として働いていることが示唆されている。
他家Muse細胞から分化した心筋細胞が6か月後でも生存
今回、研究グループは、ウサギ骨髄由来自家および他家Muse細胞、ヒト骨髄由来Muse細胞をウサギ急性心筋梗塞モデルに静脈内投与。梗塞縮小効果、心機能改善、Muse細胞由来心筋細胞の機能性などの評価を行い、さらにMuse細胞の遊走・生着を制御するメカニズムの解明や長期における他家Muse細胞の有効性を検証した。
その結果、Muse細胞は梗塞組織内で自発的に心筋と血管に分化し、線維化の抑制や液性因子による保護効果、ホスト細胞の細胞死抑制などを発揮し、梗塞サイズ縮小、心機能回復、左室リモデリングの抑制などの効果をもたらした。また、Muse細胞は、胎児が母体の免疫攻撃を抑制して拒絶を免れる機構の一部を持っているため、他家細胞であっても免疫拒絶を免れて効率よく梗塞心筋に到達し修復することが明らかとなったという。さらに、他家Muse細胞から分化した心筋細胞が6か月後でも心臓内で生存し、一旦改善された心機能が減弱せずに長期間そのまま維持されることが確認されたとしている。
今回の研究成果について、研究グループは、「他家Muse細胞の点滴静注という簡便な修復再生治療は、心筋梗塞の新しい治療の切り札になる可能性が高いと期待される」と述べている。
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