PAPIとZucchiniに焦点を当て
東京大学は3月1日、piRNA生合成因子であるPAPIおよびZucchiniの機能の詳細を明らかにするとともに、piRNA生合成機構に関する新規モデルを提唱することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院理学系研究科の西田特任助教、塩見美喜子教授を中心とする研究グループによるもの。研究成果は「Nature」に掲載されている。
画像はリリースより
生殖組織特異的に発現する小分子RNAであるpiRNAは、PIWIタンパク質とpiRISC複合体を形成して、トランスポゾンのRNAに結合することによって転写あるいは翻訳を抑制し、トランスポゾンの利己的転移によるDNA損傷から遺伝情報を守る役割を担っている。トランスポゾンを起因としたDNA損傷は、卵子・精子形成不全を導き、不妊にいたるため、有性生殖を伴う生物にとって欠かすことができない重要な分子機構であるといえる。
研究グループは、生殖細胞株BmN4を利用することによって、piRNA生合成の仕組みを理解することを目的として研究を進めている。BmN4はカイコ卵巣より樹立され、今なおpiRNAを産生し、piRNA依存的にトランスポゾンを抑制することによってその遺伝情報を守っている。今回の研究においては、主にpiRNA生合成因子であるPAPIおよびZucchiniに焦点を当てて解析を進め、これら因子の詳細な機能を明らかにするとともに、piRNA生合成機構の新規モデルを提唱することに成功したという。
ヒトの不妊発症機構の解明などの応用につながる可能性
研究グループは、PAPIとZucchiniに対するモノクローナル抗体を作成し、両者因子がPIWIタンパク質と直接相互作用することを示したのみならず、RNA干渉法によって各因子の機能を欠失した際にpiRNA生合成が著しく阻害されることを見出した。Zucchiniの機能を欠失した際には、piRNA中間産物が蓄積したため、これを単離精製し塩基配列を決定することにより、piRNA前駆体から中間産物の切り出しにはPIWIのRNA切断活性が関わることを明らかにした。
また、ミトコンドリア表面のPIWI-PAPI複合体において、PIWIはpiRNA中間産物の5’末端に結合する一方、PAPIは3’末端に結合することも判明。この状態でpiRNA中間産物を切断し、成熟型piRNAを生成するにはendonucleaseが必須であると推察されたが、その正体はZucchiniであることを実験的に証明することに成功したという。さらに、PAPIがリン酸化修飾を受けていること、この修飾がPAPIのRNA結合能を制御していることを見出した。併せて、PIWIの対称ジメチル化アルギニン部位を世界で初めて質量分析によって同定することにも成功したとしている。
今回の研究成果は、生殖細胞におけるpiRNAを介したトランスポゾン抑制機構の解明につながると期待される。研究グループは、「piRNA経路の理解はヒトの不妊発症機構の解明などの応用にもつながることが期待される」と述べている。
▼関連リンク
・東京大学大学院理学系研究科・理学部 プレスリリース