減量以外に確立された治療法はないNAFLD
九州大学は2月6日、2型糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬「カナグリフロジン」の経口投与が、脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を経てNASH肝がんの発症を遅延・抑制することを見出したことを発表した。この研究は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子細胞代謝学分野・九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野の小川佳宏教授、東京医科歯科大学医学部附属病院の土屋恭一郎助教(現山梨厚生病院)、同大大学院医歯学総合研究科分子内分泌代謝内科の柴久美子大学院生ら研究グループが、九州大学、名古屋大学、田辺三菱製薬との共同で行ったもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)はメタボリックシンドロームの肝臓での表現型と考えられており、進行するとNASHを経て肝硬変や肝細胞がん(NASH肝がん)に至る。NAFLDの発症・進展予防には、減量以外に確立された治療法はない。
SGLT2阻害薬のカナグリフロジンは2型糖尿病に対する治療薬として、既に臨床現場で使用されている。研究グループはこれまでに、SGLT2阻害薬が肥満マウスの脂肪組織重量の増加を伴って脂肪肝を抑制することを報告していた。しかし、NASHやNASH肝がんに対する効果は不明だったという。
グルタチオン代謝を還元型グルタチオン優位に変化
今回、研究グループは、独自に開発したNASHモデルマウスを用いて、カナグリフロジンのNASHおよびNASH肝がんに対する予防効果を検討。NASHモデルマウスにカナグリフロジンを経口的に投与することで、脂肪肝、NASHおよびNASH肝がんの発症を遅延・抑制することを見出したという。さらに、カナグリフロジンは、NASHモデルマウスの脂肪組織におけるグルタチオン代謝を還元型グルタチオン優位に変化させ、脂肪組織のエネルギー蓄積能を増加させることを明らかにしたとしている。
今回の研究により、脂肪肝からNASHを経たNASH肝がんの発症を既存の糖尿病治療薬で遅延・予防できることが明らかになった。さらに、腎臓からのグルコースの尿中排出の結果、脂肪組織のエネルギー蓄積能を増加させて肝臓の脂肪蓄積を抑制するものと考えられ、臓器代謝ネットワークを介した新たなエネルギー代謝制御機構が示唆された。研究グループは、「脂肪肝、NASHおよびNASH肝がんの発症遅延・予防法の開発が期待される」と述べている。
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・九州大学 研究成果