腸管上皮細胞の増殖は制御されている
理化学研究所と東京大学の共同研究グループは、タンパク質輸送因子AP-1Bが腸管上皮細胞で正常に機能しないと腸管粘膜の異常増殖が引き起こされることを発見した。
(画像はプレスリリースより)
腸管粘膜は細菌やウイルス、腸内常在細菌叢などの異物に常にさらされている。体内外の境界の役割を果たす腸管上皮細胞は、細胞膜が体外に面する区画と体内に面する区画に分かれ、区画ごとに決まったタンパク質群が境界としての機能を発揮する。腸管上皮細胞は体内で最も盛んに細胞分裂する細胞の一つで約5日間で全細胞が入れ替わるが、制御機構に異常が生じるとがんの発生につながる。しかし、そのメカニズムは不明だった。
腸管上皮細胞の増殖を制御するタンパク質
研究グループは腸管上皮細胞だけに存在し、特定のタンパク質を輸送する因子AP-1Bに着目。腸管上皮細胞でAP-1B遺伝子を欠損したマウスの小腸を調べた。
その結果、若齢(8週齢以前)の死亡率が約50%と高く、体重減少、小腸からの栄養吸収の低下、低血糖、低アルブミン血症、成長不良が認められたと説明。上皮細胞のタンパク輸送に異常があり、小腸の重量は3倍、上皮細胞が過剰に増殖していたという。
より詳細に解析すると、上皮細胞の体内に面する細胞膜に局在して細胞間接着を行うE-カドヘリンが、AP-1Bの欠損で細胞内に蓄積。また、β-カテニンはE-カドヘリンと複合体を形成し細胞間接着を制御するが、E-カドヘリンとの結合が不安定になり細胞質から核内に移行していた。その結果、細胞増殖に働く遺伝子の転写が上昇、上皮細胞が過剰に増殖することが明らかになったという。
今回の研究で、AP-1Bが腸管上皮細胞のタンパク質局在機能と増殖を制御すると判明し、上皮細胞のがん化との関連が示唆された。今後、AP-1Bを標的にした大腸がんの新たな早期発見法や予後の評価法の開発が期待できるとしている。(馬野鈴草)
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理化学研究所プレスリリース
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