成人T細胞白血病を引き起こすHTLV-1
九州大学は1月23日、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の新たな感染維持機構を解明したと発表した。この研究は、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の安永純一朗講師、熊本大学大学院生命科学研究部の松岡雅雄教授(京都大学ウイルス・再生医科学研究所、客員教授兼任)、九州大学大学院理学研究院の岩見真吾准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America」に掲載されている。
HTLV-1は主にCD4陽性Tリンパ球に感染し、感染細胞ががん化すると治療抵抗性の悪性腫瘍である成人T細胞白血病(ATL)を引き起こす。HTLV-1は発がん作用を有するTaxというウイルスタンパク質の遺伝子を持っているが、Taxは免疫の標的になりやすいため白血病細胞ではほとんど検出されず、その役割や作用機構は明らかになっていなかった。
Taxが働いている細胞では、アポトーシスが抑制
今回の研究では、Taxが作動すると蛍光タンパク質が産生されるATL細胞株を作成し、細胞が生きたままの状態でTaxの働きを観察した。その結果、ごく一部の細胞で、平均約19時間という短い間、Taxが機能していることが明らかとなったという。この細胞でTaxの働きを阻害すると、殆ど全ての細胞が死滅したことから、TaxがこのATL細胞の生存に必要であることが示されたとしている。また、細胞を分離し、各細胞内で生じている変化を解析する一細胞発現解析を実施したところ、Taxが働いている細胞では、アポトーシスが抑制されていることが判明した。
画像はリリースより
さらに、何故Taxがわずかな細胞に短時間機能するのみで、細胞集団全体の生存が影響を受けるのかという疑問について、研究グループは、Taxが減衰した細胞においても細胞死を抑制する作用が長時間持続し、細胞集団全体が維持されていると仮説。この仮説を元に数理モデルを構築し、検証したところ、実験で得られたデータを再現できることが判明したという。また、感染細胞にストレスを加えた状態で培養するとTaxを産生する細胞が増えることも実験的に明らかになったという。
この研究により、HTLV-1感染細胞が持続感染を確立し、発がんに導く新しい機序が明らかとなった。Taxは、非常に良いワクチンの標的と考えられており、Taxの発現調節機構に関してさらに解析が進むことで、Taxの発現誘導とTaxワクチンを併用する新しい複合免疫療法の開発に繋がる、と研究グループは述べている。
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・九州大学 研究成果