自閉スペクトラム症患者のde novo変異ビッグデータから
横浜市立大学は1月17日、自閉スペクトラム症患者でみられるde novo変異の統合的ビッグデータ解析を行い、新規原因遺伝子候補の同定、疾患関連脳部位の特定、de novo変異によって傷害される遺伝子を調節する化合物の発見などに成功したと発表した。この研究は、同大学学術院医学群遺伝学の高田篤講師、三宅紀子准教授、松本直通教授らと、神奈川県立こども医療センターの鶴崎美徳主任研究員および多施設共同研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
自閉スペクトラム症は、社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害と、限定された反復する様式の行動、興味、活動を特徴とする神経発達症。有病率は、約1~2%で、男性に多いとされている。
これまでの疫学研究や遺伝研究から、ゲノム因子が自閉スペクトラム症の発症に関わることが知られている。近年、次世代シーケンサーを用いて、親が持たない新たな変異が子のゲノムに生じるde novo変異を網羅的に解析することで、新規原因遺伝子の同定など重要な知見が得られている。しかし、これらの研究は主に欧米で行われたものであり、日本人を対象とした研究は小規模なものしかなかった。
自閉スペクトラム症の新規原因遺伝子候補ATP2B2など同定
研究グループは、日本人自閉スペクトラム症患者とその両親からなる262家系のエクソーム解析を行い、両親にはなく患者にのみある変異をde novo変異として同定し、その性質を解析。その結果、遺伝子がコードするタンパク質の配列を変化させ、遺伝子機能を傷害するタイプのde novo変異(機能的de novo変異)が、健常対照群と比べて自閉スペクトラム症患者で多いという、先行研究で観察されていた結果が確認された。これらの機能的de novo変異によって傷害される遺伝子が関わる生物学的経路も、日本人と欧米人で共通していたという。
次に、今回新たに取得した日本人データと先行研究のデータを組み合わせ(合計4,244家系)、さらに網羅的な脳内での遺伝子発現データを用いるなどして、統合的ビッグデータ解析を実施。その結果、自閉スペクトラム症との関連がすでに報告されていた、ヒストン修飾、シナプス機能など分子経路や、大脳皮質について確認するとともに、アデノシン三リン酸と結合する遺伝子のグループや、小脳・線条体といった脳部位が自閉スペクトラム症に関与することを明らかにしたという。
また、機能的de novo変異を複数の患者で認められる遺伝子の解析からは、細胞膜でカルシウムを輸送するポンプの役割を担うタンパク質をコードするATP2B2などを、有力な自閉スペクトラム症の新規原因遺伝子候補として同定したとしている。
最後に、機能的de novo変異によって傷害される遺伝子の機能を全体的に変化させる化合物のスクリーニングを行った結果、妊娠中の服薬が自閉スペクトラム症のリスク因子となることが知られているバルプロ酸が、これらの遺伝子の発現量を下げることが判明。逆に、ジゴキシン、プロシラリジンなどの強心配糖体は、これらの遺伝子の発現を上げる作用を有することが明らかになったという。
今後その効果の研究がさらに進むことで、新たな治療法の開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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