視神経炎と横断性脊髄炎が特徴の中枢神経の自己免疫疾患
大阪大学は1月9日、軸索再生阻害因子「Repulsive guidancemolecule a」を抑制することで、視神経脊髄炎モデルラットの病状を緩和できることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科/生命機能研究科/免疫学フロンティア研究センター分子神経科学の山下俊英教授、藤田幸助教、同大学大学院医学系研究科神経内科学の望月秀樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」で公開された。
視神経脊髄炎(NMO)は、主に視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする中枢神経の自己免疫疾患。患者の血清中には抗アクアポリン4(AQP4)抗体が存在し、NMOの診断基準として用いられている。NMOの視神経障害では最終視力0.1と視機能障害性が強く、1/3の症例で片眼が失明している。脊髄炎では3椎体以上の大きな病変を生じるため、日常生活に大きな障害をきたす危険がある。
NMOの治療としては、急性期におけるステロイドの大量投与や血漿交換療法が有効と考えられているが、高いコストや副作用のリスクがある。またNMOは再発性が高く、症状は徐々に増悪する。再発防止には、年単位にわたる持続的な少量ステロイド投与や免疫抑制薬の併用が必要になることがあるため、NMOの症状を緩和する新たな治療薬の開発が待たれている。
従来、NMOの病態研究では抗AQP4抗体をマウスやラットなどの齧歯類に投与する動物モデルが使用されてきた。しかし従来のモデルでは、さまざまな部位に病変を生じるために、メカニズムを検証することが困難だった。
抗RGMa抗体で炎症細胞の集積と軸索障害が抑制
今回、研究グループは、NMO患者由来の抗体を脊髄に局所投与した新たなNMOモデルラットを作成。患者由来の抗体を投与したラットでは神経症状を示す臨床スコアが悪化し、抗体投与部位周辺でアストロサイトの減少が見られた。このモデルラットに対してヒト化抗Repulsive guidancemolecule a(RGMa)抗体を静脈内投与すると、神経症状の発症が遅れ、臨床スコアが改善し、神経症状が緩和することが判明したという。
次に、抗RGMa抗体による神経症状改善の効果を検証するために組織学的な解析を実施したところ、NMOモデルラットの脊髄病変部位でみられるアストロサイトの減少が抑制されることが判明。NMOモデル動物では病変部位に炎症性細胞の集積が認められるが、抗RGMa抗体の投与によって、炎症性細胞の集積が抑制されることがわかったという。
また、NMOの病態の一因として神経軸索への障害が知られており、NMOモデルラットでも神経軸索の減少が認められた。一方、抗RGMa抗体を投与したNMOモデルラットでは、神経軸索の減少が抑制され、病変部位で残存する軸索数が増加していることが判明。これらの結果から、抗RGMa抗体が炎症細胞の集積と軸索障害を抑制し、NMOの神経症状を緩和することが示唆されたとしている。
今回の研究成果より、既存の薬剤では治療が困難だったNMOに対して、ヒト化抗RGMa抗体が効果を示す可能性がある、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪大学 研究情報