がん細胞内のみ破壊する治療用アデノウイルス製剤
岡山大学は12月22日、全身投与可能なステルス性腫瘍融解アデノウイルス製剤の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科(医)消化器外科学分野の藤原俊義教授、同大学病院新医療研究開発センターの田澤大准教授、黒田新士助教らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学雑誌「Scientific Reports」電子版で公開された。
画像はリリースより
岡山大学では、風邪ウイルスの一種であるアデノウイルス遺伝子の一部を遺伝子改変し、がん細胞内でのみ特異的に増殖してがん細胞を破壊する、治療用アデノウイルス製剤「テロメライシン」を開発している。米国で実施した同剤の臨床試験では、重篤な副作用は認められておらず、一部のがん患者では投与部位での腫瘍縮小効果などの有効性が認められているという。岡山大学病院では現在、食道がん患者に対するテロメライシンと放射線を併用した臨床研究と治験が進められている。一方で、一般成人のほとんどはアデノウイルスに対する免疫を有しているため、このテロメライシンを全身投与すると速やかに免疫系により排除されるという。
また、標的とする病変まで治療薬を効率よく運搬するために、ナノサイズの薬物担体が利用されるようになっている。細胞膜と同じ成分のリン脂質からなるナノサイズのカプセルであるリポソームは、臨床応用もされている代表的な薬物担体のひとつだ。
プラスミドDNAをリポソームに搭載
今回、研究グループは、腫瘍融解アデノウイルスのプラスミドDNAをリポソームに搭載。ウイルス中和抗体などの免疫系による排除を回避するステルス機能を有することにより、全身投与で治療効果を期待できるステルス性腫瘍融解アデノウイルス製剤の開発に成功したという。これによって、テロメライシンの全身に転移を有するがん、局所投与が困難な領域のがんへの適応拡大につながる可能性があるとしている。
また、腫瘍融解アデノウイルスのプラスミドDNAをリポソームに搭載して運搬するという発想は、テロメライシンに限らず他の腫瘍融解ウイルスでの応用も可能という。今回の研究成果は、将来的には腫瘍融解ウイルス製剤全体の適応拡大へつながる可能性を秘めている、と研究グループは述べている。
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