ストレスが大きく関係、若年者の罹患者が多いIBS
名古屋大学は12月12日、情動ストレスが過敏性腸症候群(IBS)を引き起こす新しい機序を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院検査部の竹下享典講師、同大大学院医学系研究科循環器内科学の室原豊明教授、メメット・イスリー大学院生、同大医学部附属病院検査部の松下正教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Brain, Behavior, and Immunity」に掲載された。
画像はリリースより
IBSは、腹痛あるいは腹部不快感とそれに伴う便通異常が持続する疾患。若年者に多く、罹患者は世界で10%以上だといわれている。病態にはストレスが大きく関わり、その治療には腸管の動きをコントロールする薬剤のほかに、ストレスについての心理的側面のサポート・治療、腸内環境を整えることが重要だと知られている。
レニン-アンギオテンシン系は血圧を上昇させるホルモン系。高血圧症の重要な治療標的で、アンギオテンシン受容体拮抗薬はこれを抑制して血圧を下げる。アンギオテンシン受容体拮抗薬は国内で7種類が認可されている。
研究グループは先行研究より、マウス拘束ストレスモデルの解析から、情動ストレスが内臓脂肪組織においてレニン-アンギオテンシン系を活性化し、脂肪組織の慢性炎症を引き起こしてメタボリック症候群と同様な現象を起こすこと、アンギオテンシン受容体拮抗薬がこのストレスの悪影響を抑制することを明らかにしている。
活性化していた腸管のレニン-アンギオテンシン系を抑制
研究グループは、今回もIBS動物モデルとしてマウス拘束ストレスモデルを解析。大腸において、炎症細胞浸潤、粘膜下浮腫が認められた。大腸では、レニン-アンギオテンシン系が活性化し、酸化ストレス、炎症性サイトカインの増加を確認したという。
一方小腸では、レニン-アンギオテンシン系の活性化により、トリプトファンのACE2/B0AT-1を吸収する小腸のアミノ酸トランスポーターが減少し、それに伴い、血中のトリプトファンも減少。このトリプトファンからセロトニンを作る酵素も減少し、血中のセロトニンも減少したという。ストレスにより、小腸から分泌される抗菌物質アルファーディフェンシンも減少するため、腸内環境は悪化。善玉菌の割合が低下し、悪玉菌の割合が増加したという。
また、高血圧症を治療する薬剤であるアンジオテンシンII受容体拮抗薬「irbesartan」をマウスに3mg/kg/dayあるいは10mg/kg/dayを投与したところ、薬物の量が多いほど、ストレスによって活性化していた腸管のレニン-アンギオテンシン系を抑制。その結果、ストレスによる腸管の慢性炎症は改善し、トリプトファンの吸収、セロトニン産生、腸内環境のいずれも改善したという。
研究グループは、ストレスが関連する病態をさらに解明し、「病は気から」のメカニズムを解明していきたい、と述べている。
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