薬剤の脳への送達を著しく制限する血液脳関門
ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)は10月18日、血中グルコース濃度(血糖値)の変化に応答して、脳への薬剤の送達を妨げる血液脳関門(BBB)を効率よく通過し、脳内へ集積する「BBB通過型ナノマシン」の開発に成功したと発表した。この研究は、同センターの片岡一則センター長(東京大学政策ビジョン研究センター特任教授)と、東京医科歯科大学脳神経病態学分野(神経内科)の横田隆徳教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
アルツハイマー病などの難治性脳神経系疾患の治療を難しくしている原因は、BBBという生体内バリア機構だ。BBBは、脳血管内皮細胞を主体として、循環血液と脳神経系の物質輸送を制御する機能を担っており、脳の活動に必須な栄養素を選択的に取り込む反面、薬剤の脳への送達を著しく制限している。現在、アルツハイマー病の対症療法に用いられる低分子薬剤「ドネペジル」も、脳への集積量は投与量の0.1%に満たないのが現状。そのため、薬剤がBBBを効率的に通過するための技術開発が行われている。
グルコース非結合ナノマシンと比べ100倍以上高い集積量
研究グループは、血糖値の変化に応答して、既存技術よりも効率よくBBBを通過し、脳内の神経細胞へと集積するBBB通過型ナノマシンの開発に成功した。ナノマシンを空腹状態のマウスに静脈投与し、その30分後にグルコース溶液を投与することで、最大で投与量の約6%が脳へ集積することを確認。これはグルコース非結合ナノマシンと比べ、100倍以上高い集積量だという。一方、食事を自由にさせたマウスでは、ナノマシンを注射しても脳にほとんど集積しなかったという。
また、脳内でのナノマシンの挙動を顕微鏡で観察したところ、グルコースに応答してBBBを通過する機能を有していることを確認。さらに、脳の深部に至るまで一様に分布することを確認したという。また、BBBを通過したナノマシンは、脳内の神経細胞へと取り込まれることも判明した。
BBB通過型ナノマシンは、さまざまな薬剤を脳に送達することができるという。とくに、抗体医薬や核酸医薬など、従来神経疾患には適応困難だった高分子医薬の脳への送達を初めて可能にする基盤技術であり、根本治療法が確立されていないアルツハイマー病などの難治性脳神経系疾患の治療薬開発を推進することが期待される、と研究グループは述べている。