マスト細胞がエポキシ化オメガ3脂肪酸を常時産生
東京大学は10月10日、マスト細胞が酵素のPAF-AH2によって産生される酸化オメガ3脂肪酸(エポキシ化オメガ3脂肪酸)を介して自身の活性化を促進し、アレルギー反応を促すことを発見したと発表した。この研究は、同大大学院薬学系研究科の新井洋由教授・河野望講師のグループと、同大学院医学系研究科の村上誠教授のグループによるもの。研究成果は「Nature Medicine」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
近年、先進国でのアレルギー患者数は急増しており、大きな社会問題となっている。アレルギー患者の特徴として、過度なマスト細胞の活性化や、血中イムノグロブリンE濃度の増加が挙げられることから、マスト細胞の活性化制御機構の詳細な解明がアレルギー治療の急務となっている。
マスト細胞は、活性化すると膜リン脂質からオメガ6脂肪酸のアラキドン酸を切り出す。切り出されたアラキドン酸は、さまざまな酵素によって酸化され、プロスタグランジンD2(PGD2)やロイコトリエンC4(LTC4)などの酸化脂肪酸メディエーターとなり、気道収縮や粘液分泌といった生理活性を発揮する。
一方、近年、オメガ3脂肪酸のEPAやDHAも酸化され、一般的には抗炎症性のさまざまな生理活性脂質に変換されることが報告されている。しかし、マスト細胞が産生する生理活性脂質については、アラキドン酸由来のごく限られたものしか注目されておらず、オメガ3脂肪酸とマスト細胞機能の関係については解明されていなかった。
PAF-AH2の特異的阻害剤がアナフィラキシー反応を抑制
研究グループは、マスト細胞が、従来知られているPGD2やLTC4といったアラキドン酸由来の酸化脂肪酸よりも、EPAやDHAが酸化したエポキシ化オメガ3脂肪酸(17,18-EpETEと19,20-EpDPE)を豊富に産生していることを発見。これらエポキシ化オメガ3脂肪酸は、酵素のPAF-AH2によって細胞膜から遊離されることもわかったという。
また、エポキシ化オメガ3脂肪酸が、遺伝子発現を変えることにより、活性化マスト細胞の細胞内シグナル伝達を調節するという、新しいアレルギー反応の調節メカニズムも解明。さらに、PAF-AH2の特異的阻害剤により、アナフィラキシー反応が抑制されたことから、アレルギーの新しい創薬標的として、PAF-AH2が有用であることが示唆されたという。
オメガ3脂肪酸は「体に優しい脂肪酸」として一般に知られているが、研究グループは、今回の発見により、オメガ3脂肪酸がアレルギーを悪くすることを初めて提示したとしている。また、今後は、PAF-AH2の阻害を分子基盤にした新しい抗アレルギー薬の創生が期待されると述べている。
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