視床の後外側腹側核に局所的な脳出血を作成
産業技術総合研究所は9月12日、脳卒中後疼痛のメカニズムの解明や、脳卒中後疼痛治療法を評価するためのサルのモデル動物を開発したと発表した。この研究は、産総研人間情報研究部門システム脳科学研究グループ長坂和明技術研修員らのグループによるもの。研究結果は、国際科学誌「Scientific Reports」にオンライン掲載された。
画像はリリースより
脳卒中後疼痛は、永続的に続くことがあるため、日常生活の動作やリハビリテーションが著しく阻害される。また、軽い感覚刺激でも痛みを感じる「アロディニア」という症状もみられることがある。従来の鎮痛薬はあまり効果がなく、治療技術の開発も進んでいない。治療技術の開発には、その症状を再現できるモデル動物の確立が不可欠であり、脳卒中後疼痛についても適切なモデル動物が求められていた。
研究グループは今回、モデル動物のサルの脳で、皮膚に触れたときの感覚の情報を中継する視床の後外側腹側核に局所的な脳出血を作成し、感覚刺激に対する逃避行動を調べた。
脳損傷前は逃げなかった軽い刺激にも逃げる様子を観察
研究の結果、脳損傷が安定してから数週間経過した後には、脳損傷前は逃げることがなかった軽い触覚や温度を与えたときにも逃げる様子が見られた。このことから、アロディニアのような症状が生じていると考えられ、これは、脳卒中患者の脳卒中後疼痛の病態と類似しているという。
さらに、疼痛の発症との関連が示唆されているミクログリアの変化を調査。損傷周囲領域では、損傷を受けていない健常領域と比べて、ニューロン近くに活性化したミクログリアが集積していることが確認できたという。活性化したミクログリアの顕著な増加は、げっ歯類を用いたモデルよりも長く続き、脳出血の3か月後でも見られた。この結果から、本モデルでは、脳卒中後疼痛患者と同様の時間経過で脳に不適切な変化が生じていると考えられるとしている。
今回開発したモデルを用いることで、脳卒中後疼痛を引き起こすと考えられている不適切な脳の変化の解明や治療法の開発につながる可能性がある、と研究グループは述べている。
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・産業技術総合研究所 研究成果