調査は、回復期・慢性期医療を担う北里大学東病院の全6病棟(精神神経科2病棟、神経内科、在宅緩和支援・神経耳科、小児在宅支援、回復期リハビリテーション)で薬剤師が行った薬学的介入のうち、処方変更された事例を対象に行われたもの。これまで病棟薬剤師による薬学的介入効果について、急性期病院からの報告は見られていたものの、慢性期病院における病棟薬剤師の介入効果は分かっていなかった。
そこで、北里大薬学部、同大東病院薬剤部の研究グループは2015年4月から昨年3月にかけて、慢性期病院の病棟薬剤師が薬学的介入を行ったことによる医療経済効果を検討するため、処方内容、疑義照会内容、処方提案内容、情報提供内容、オーダー変更の有無、介入結果について検討した。
これら病棟業務の介入事例について、▽重大な副作用の回避または重篤化の回避▽経静脈的な抗菌薬療法への介入▽癌化学療法への介入▽薬物相互作用の回避▽腎機能に応じた投与量の推奨▽注射薬配合変化の防止▽薬歴の聴取に基づく処方提案▽副作用報告――などに分類した。
医療費削減額は、「重大な副作用の回避または重篤化の回避」を1件214万円、「経静脈的な抗菌薬療法への介入」を1件19万円、「癌化学療法への介入」を1件11万2000円、「薬物相互作用の回避」「処方提案」などについてはハイリスク薬に関する事例を1件8万4000円、ハイリスク薬以外を1件5万6000円として算出した。
その結果、介入件数で最も多かったのは、ハイリスク薬以外の薬剤処方提案で1133件。そのうち処方変更となった事例は871件、医療費削減額は4877万6000円となった。重大な副作用の回避または重篤化の回避は34件、そのうち処方変更となった事例は7件で、医療費削減額は1498万円と大きかった。そのほか、経静脈的な抗菌薬療法への介入が32件。処方変更となった事例は15件、医療費削減額は285万円となった。
病棟別に医療費削減額を見ると、神経内科病棟で3520万6000円と最も多く、次いで精神神経科の2病棟合計で2170万円、小児在宅支援病棟で929万6000円などとなり、全ての病棟で行われた薬学的介入1177件による医療費削減額は、年間7797万4000円に上ることが明らかになった。先行研究で示された急性期病院での削減額よりも大きく、慢性期病院でも病棟薬剤師の介入による医療費削減効果の大きさが裏づけられた。
特に医療費削減額が大きかった神経内科病棟において薬剤師が行った薬学的介入のうち、最も多かったのは処方提案だった。具体的には、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症患者への経管投与で、細粒を簡易懸濁できる錠剤に変更したり、簡易懸濁できない錠剤を細粒へ変更または粉砕指示を追加する提案などが多かった。
研究グループでは、「これら介入は、経管チューブが閉塞して薬物治療が適切に行われないために起こる副作用の予防につながり、医療費削減に貢献していることが考えられた」と分析。特に重篤な副作用の回避に分類した介入事例7件のうち、5件が神経内科病棟で行われていたことが大きな医療費削減につながったとの見方を示している。