覚醒維持物質オレキシンの受容体に拮抗するスボレキサント
順天堂大学は8月18日、オレキシン受容体拮抗作用による新規不眠症治療薬であるスボレキサントに、せん妄の予防効果があることが判明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科精神・行動科学の八田耕太郎教授、臼井千恵准教授らの研究グループ「DELIRIA-J」が2015年4月から開始した「スボレキサントのせん妄予防効果:プラセボ対照ランダム化比較試験」の臨床研究結果によるもの。研究成果は「The Journal of Clinical Psychiatry」に掲載されている。
画像はリリースより
研究グループは今回、新規不眠症治療薬で、覚醒維持物質であるオレキシンの受容体に拮抗することで睡眠をもたらす作用をもつスボレキサントに着目。このオレキシン受容体拮抗薬が、せん妄リスク因子である従来の睡眠薬とは異なり、せん妄予防効果をもつという仮説に至り、2015年4月から同研究を実施。多施設共同評価者盲検プラセボ対照ランダム化比較試験を集中治療室および急性病棟で2015年4月~2016年3月まで実施した。
せん妄による転倒、認知症の進行など症状予後の改善
対象は、高齢、重症化する身体状況という少なくとも2つのせん妄リスクがある65~89歳の内服可能で、48時間以上の滞在が見込まれる救急入院患者。うち72名が封筒法でスボレキサント(15mg;36例)あるいはプラセボ(36例)にランダム割付され、入院後3日間の就寝前に試験薬を服用。主要評価項目として米国精神医学会の診断基準DSM-5に基づく、せん妄の発症率を解析した。
その結果、スボレキサント服用群にせん妄は発症しなかったが、プラセボ服用群では17%(36例中6例)にせん妄が発症し、スボレキサントの服用がせん妄発症率を有意に低く抑えた。これは睡眠覚醒サイクル障害へのスボレキサントの効果が影響したと考えられるという。また、重篤な有害事象は発生しなかったことから、急性疾患で入院する高齢者が就寝前にスボレキサントを服用すると、安全にせん妄を予防する効果があることを世界で初めて実証したとしている。
今回の研究成果について研究グループは、高齢者によくみられるせん妄による転倒や認知症の進行といった症状の短期的・長期的予後の改善に繋がる、と期待を寄せている。
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・順天堂大学 プレスリリース