■米薬局方要件で無菌性確保
海外では、複数の患者の抗がん剤調製に使用できる大容量のマルチドーズバイアルが上市されているのに対し、日本には1回の使用を想定したシングルドーズバイアルしか存在しない。そのため多くの病院は、1回の調製ごとにバイアルに残った抗がん剤を廃棄し、使用したバイアル本数単位で保険請求している。病院にとっては、廃棄分の費用も保険で賄えるため損失にはならないが、国の視点からは廃棄している抗がん剤を有効活用することによって薬剤費を削減できる余地が残されている。
同院薬剤部も、多くの病院と同様の体制で抗がん剤の調製と保険請求を行っていたが、昨年4月からDVOを開始した。米国薬局方を参考に、複数患者の調製にシングルドーズバイアルを使用する期間は6時間以内に限定。1日に20~30件に及ぶ入院患者の抗がん剤調製のうち、同じ抗がん剤の処方が重なるなど、可能な場合にDVOを実施している。DVO実施時にはバイアル単位ではなく、使用量単位で保険請求している。
昨年4月から1年間の実態を調べたところ、DVOを実施した抗がん剤は27剤に達し、合計で627バイアルを削減できた。フルオロウラシルの削減本数が最も多く、カルボプラチン、キロサイドなどと続いた。
削減本数が最多のフルオロウラシルを対象に、DVOを実施しなかった場合に推定される1カ月間の理論廃棄量と、DVO実施時の廃棄量を比較したところ、DVO実施によって廃棄量を78%削減できた。
削減できたバイアルの本数に薬価を乗じて薬剤費節約効果を算出すると、1年間で約500万円の節約効果が認められた。以前はこの金額分の抗がん剤を廃棄していたが、DVOの実施によって有効に活用できた。薬剤別の節約額はオプジーボ、アバスチン、アービタックスなどの順に大きかった。
同院薬剤部は、DVOの実施に当たって保存料が含まれていないシングルドーズバイアルの無菌性を保証できる条件を調べた。米国薬局方に記載されていた「針刺し後の使用期限はISOクラス5以上の環境で、6時間以内」との要件に準じ、安全キャビネットから出さず、6時間以内に実施することにした。
閉鎖式調製器具(CSTD)の活用は無菌性を担保する解決策の一つだが、同院はCSTDを導入していない。導入には費用もかかる。米国薬局方の要件に準じることで、CSTDを用いることなく無菌性を担保してDVOを開始できたという。