分界条床核に存在するGABA作動性ニューロンが関与
筑波大学は6月28日、恐怖や不安に関与する脳の領域である分界条床核に存在するGABA作動性ニューロンを特異的に興奮させると、ノンレム睡眠をしていたマウスが直ちに覚醒することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の櫻井武副機構長/教授と金沢大学医学類の小谷将太(学部学生)らの研究グループによるもの。研究成果は米科学雑誌「Journal of Neuroscience」に掲載されている。
画像はリリースより
動物の睡眠と覚醒の状態は、体内時計や先行する覚醒の長さ(睡眠負債)の影響を受けて変化し、生体内外の環境によっても大きな影響を受ける。環境中に恐怖や報酬の対象となるものが存在することで生じた情動は、交感神経系の興奮やストレスホルモンの分泌とともに、覚醒を引き起こす。一方、明確な対象のない、漠然とした不安も覚醒に影響し、こうした情動が不眠症の根底にあることがよく知られている。しかし、実際にどのような神経科学的なメカニズムがそこに介在しているかは、これまで明らかになっていなかった。
持続的な興奮で覚醒時間が延長
研究グループは、分界条床核に局在するGABA作動性ニューロンに着目し、マウスを用いてそれが覚醒を制御する上での役割を解析。特定の神経細胞を操作することによってその機能を知る光遺伝学という手法を用いて、GABA作動性ニューロンを特異的に興奮させた。
その結果、ノンレム睡眠をしていたマウスが直ちに覚醒することが判明。また、同じニューロンを持続的に興奮させたところ、覚醒時間が延長され、ノンレム睡眠・レム睡眠両方が減少。さらに、前者の反応は、覚醒を司ることが知られているオレキシン系の作用を介していないのに対し、後者はオレキシンの作用によることが確認できたという。
不眠症の根底には不安が存在することが多く、そのメカニズムには分界条床核やオレキシンが関与していることが示唆された。今回の研究成果により、不安障害や不眠症などに効果のある医薬品の開発や、現在、不眠症治療薬として実用化されているオレキシン受容体拮抗薬の詳しい作用メカニズムを理解する重要な知見となる、と研究グループは述べている。
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