MAPキナーゼシグナルを調節するACA-28
近畿大学は5月9日、細胞増殖シグナルのひとつである「ERK MAPキナーゼシグナル」が過剰に活性化しているがん細胞について、細胞の増殖を阻害する新化合物「ACA-28」を発見したと発表した。この研究は、同大薬学部創薬科学科分子医療・ゲノム創薬学研究室の杉浦麗子教授、佐藤亮介助教らの研究グループによるもの。研究成果は「Genes to Cells」に5月9日付けで掲載されている。
画像はリリースより
皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫)は予後が悪く、早期に転移を起こしやすいという特徴がある。そのため、近年、メラノーマに対する新たな治療薬の開発が推進されてきた。しかし、これらの抗がん剤の長期連用によって、がん細胞の抗がん剤抵抗性獲得や重篤な副作用の出現が問題となっているため、メラノーマに特異的に作用し、副作用の少ない抗がん剤の開発が求められている。
研究グループは、がん細胞の増殖に関与するシグナル伝達分子のひとつ「ERK MAPキナーゼ」に着目。MAPキナーゼの活性を調節する化合物開発をめざし、ヒトと類似したシグナル伝達分子を有する分裂酵母を用いた、独自の創薬探索手法を確立した。このシステムにより取得したのが、MAPキナーゼシグナルを調節する化合物「ACA-28」。今回の研究では、特定のメラノーマ細胞のERK MAPキナーゼが異常に活性化していることに着目し、ACA-28がこれらのメラノーマ細胞に対して特異的に細胞増殖を抑制することを明らかにした。また、これらの細胞増殖抑制効果の一因は、アポトーシス(細胞死の一種)の誘導によるものであることがわかったという。
さらなる抗がん剤候補化合物の探索も可能
また、正常細胞のERK MAキナーゼを人工的に活性化させることでがん化させた細胞においても、ACA-28は強力な細胞増殖抑制効果を発揮した。これらの結果から、ACA-28はメラノーマだけでなく、ERK MAPキナーゼが過剰に活性化しているような他のがん細胞種に対しても阻害効果を示す可能性が期待されるという。さらにACA-28は、ヒトの正常な色素細胞(メラニン産生細胞)に対しては影響が少なく、がん細胞に対して特に強力に効果を発揮するという。今後、がん細胞を標的として副作用を少なくする、新たながん治療薬の開発につながることも期待される。
研究グループは、今後、ACA-28の臨床応用へ向けて、同化合物の抗がん作用発現のメカニズムや、がん細胞特異性獲得のメカニズムを詳細に突きとめる必要があるとしている。また、今回開発した「分裂酵母を用いた化合物探索システム」を駆使することで、副作用の少ない抗がん剤の候補化合物を取得できることが実証されたことから、さらなる抗がん剤候補化合物の探索が可能である、と研究グループは述べている。
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