微弱な電流で脳神経の活動を変化
金沢大学は4月27日、経頭蓋直流電流刺激を用いて、人の身体のイメージ操作能力を高めることが可能であるという研究結果を発表した。この研究は、同大学子どものこころの発達研究センターの三邉義雄センター長、菊知充教授らと、浜松医科大学と共同研究によるもの。研究成果は、スイスの科学雑誌「Frontiers in Human Neuroscience」オンライン版に4月11日付けで掲載されている。
画像はリリースより
経頭蓋直流電流刺激は、1~2ミリアンペア程度のほとんど本人が気付かないくらい弱い直流電流を10~20分程度通すことにより脳神経の活動を変化させる方法。近年、脳卒中後のリハビリや、うつ病などの治療への応用が期待されており、世界中で研究されている。
この方法を身体の動きを脳内で想像する能力である「イメージ操作能力」の活性化に応用できれば、リハビリなどで運動学習を促進することが可能になると期待される。しかし、脳のどの部分を活性化すれば、身体のイメージ操作能力を向上させられるか、十分な結論が得られていなかった。
外側後頭側頭皮質への刺激でイメージ操作能力が向上
今回、研究グループは、陽電子放射断層撮影(PET)による脳の可視化と、経頭蓋直流電流刺激による脳制御という2つの実験を行った。
まず、さまざまな認知機能の低下を来している認知症患者を中心とする100名の高齢者を対象とし、PETで測定した脳の糖代謝量と、「手のイメージ写真を回転させるとどのように見えるか」を想像する能力との関係を調べた。その結果、外側後頭側頭皮質の糖代謝が低下、つまり機能が低下すると、身体のイメージ操作能力が低下することがわかったという。これにより外側後頭側頭皮質が、身体のイメージ操作能力と重要な関わりがあることがわかった。
次に、外側後頭側頭皮質を経頭蓋直流電流刺激で刺激することで、身体のイメージ操作能力を向上できるという仮説を立て、健常成人40名を対象に、外側後頭側頭皮質の刺激実験を行った。この実験では、身体イメージ操作テストと単純な選択テスト、作動記憶テストの3つのテストを実施。各テスト中に実験参加者の外側後頭側頭皮質へ実際に刺激を与えた場合(本当の刺激)と、外側後頭側頭皮質へ刺激を与えるふりをした場合(偽の刺激)のそれぞれで正答率を比較した。
その結果、身体のイメージ操作テストにおいて本当の刺激を行った群は、偽の刺激を行った群と比較して正答率が6.7%向上。同時に実施した単純な選択テストや作動記憶テストでは良い影響も悪い影響も確認されなかったという。
今回の研究により、外側後頭側頭皮質を刺激することで運動学習に重要な能力である身体のイメージ操作能力が高まることが世界で初めて示された。この研究を応用することで、身体のイメージ操作能力の向上が認知機能の改善に作用し、リハビリの必要な人の早期回復など、人々の活力溢れる生活の実現へとつながることが期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・金沢大学 ニュースリリース