医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 母乳栄養児にビフィズス菌優勢な腸内フローラが作られる仕組みの一端を解明-京大

母乳栄養児にビフィズス菌優勢な腸内フローラが作られる仕組みの一端を解明-京大

読了時間:約 2分3秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2017年04月11日 PM01:30

離乳と同時に消滅するビフィズス菌優勢な腸内フローラ

京都大学は4月7日、母乳栄養児の腸管内でビフィズス菌優勢な腸内フローラが形成される仕組みの一端を解明し、それに関わる母乳オリゴ糖の分解酵素ラクト-N-ビオシダーゼの立体構造と機能を明らかにしたと発表した。この研究は、同大学生命科学研究科の片山高嶺教授(石川県立大学 寄附講座特任教授兼任)の研究グループが、東京大学の伏信進矢教授らと共同で行ったもの。同成果は、米科学誌「Cell Chemical Biology」電子版に4月6日付けで掲載されている。


画像はリリースより

ビフィズス菌は、1899年にパスツール研究所のTissierによって、母乳栄養児の糞便に多く観察される細菌として単離された。授乳を開始すると直ぐに乳児の腸管にはビフィズス菌優勢な腸内フローラが形成されるが、離乳と同時にこのフローラは消滅する。このことから、人の母乳にはビフィズス菌を増やすなんらかの因子が含まれていると予測されていたが、その機構は解明されていなかった。

分解酵素ラクト-N-ビオシダーゼの立体構造と機能を解明

そこで研究グループは、人の母乳に含まれるオリゴ糖(母乳オリゴ糖)を利用するための酵素(母乳オリゴ糖分解酵素)をビフィズス菌のみが有していることに着目して研究を実施。今回の研究では、母乳オリゴ糖の中でも含有量の高い「ラクト-N-テトラオース」というオリゴ糖に作用する「ラクト-N-ビオシダーゼ」という酵素に着目して研究を行った。

まず、京都府内の助産院の協力を得て、完全母乳で育てた乳児の糞便と混合乳で育てた乳児の糞便を解析。ビフィズス菌の数が完全母乳栄養児で有意に多いこと、またラクト-N-ビオシダーゼの遺伝子数も有意に高いことを見出したという。次に、X線結晶構造解析によりこのラクト-N-ビオシダーゼの立体構造を解明することで、その構造特性と詳細な反応機構を明らかにした。

ラクト-N-テトラオースは、さまざまな霊長類の乳中でも人乳にのみ特に多く含まれている成分であり、ビフィズス菌はヒトの乳児に特徴的に多く生息する細菌だ。このことから、ヒトはその乳児期に積極的にビフィズス菌と共生するという進化を遂げ、それを支えたのが母乳オリゴ糖であることが推察されるという。今回着目したラクト-N-ビオシダーゼはLnbXという種類であり、ビフィズス菌はもう1種類、同じ反応を触媒しながらも全く異なる構造の「ラクト-N-ビオシダーゼLnbB」を有している。乳児腸管に生息するビフィズス菌は4種程度だが、それぞれの種が異なった戦略で母乳オリゴ糖を利用していることが明らかとなってきた。これは、4種のビフィズス菌が同じ生育環境中に生息しながらも多様な酵素群を進化させてきたと言え、ビフィズス菌種間においても母乳オリゴ糖の利用を巡る生存競争があったと考えられるという。

近年、ヨーロッパを中心にして、人工的に合成した母乳オリゴ糖を人工乳に添加しようという動きがある。今回の研究は、母乳オリゴ糖のビフィズス因子としての機能を解明した研究であり、科学的エビデンスに基づいた食品添加物や栄養補助食品の開発に弾みをつけるものと言える。研究グループは、「乳児期にビフィズスフローラが形成されることのヒトにとっての生理的意義」を理解することを今後の課題として、引き続きこの課題に取り組んでいきたいと述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大