ヒト多能性幹細胞由来の心筋細胞を用いた再生医療
東京女子医科大学は3月30日、下大静脈周囲に移植したヒトiPS細胞由来心筋組織が、その拍動に伴い血管内に脈圧を生み出せることを見出し、心筋組織移植の循環補助への応用の可能性を示したと発表した。この研究は、同大学先端生命医科学研究所・同医学部循環器内科の松浦勝久准教授らの研究グループが、同大学心臓血管外科と共同で行ったもの。同研究成果は、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に同日付けで発表されている。
画像はリリースより
重症心不全に対する新たな医療として、ヒト多能性幹細胞由来心筋細胞を用いた再生医療研究が世界的に進められている。心筋細胞移植の効果としては、その拍動に伴う循環への補助が期待されるが、心臓への移植による解析では、心臓自体が拍動していることから、移植心筋の物理的効果が必ずしも明らかではなかった。
拡張型心筋症や陳旧性心筋梗塞など、左心系の機能不全に伴う心不全だけでなく、右心系の機能不全に対しても補助循環の開発が期待されている。中でも先天性心疾患のひとつである単心室症は、フォンタン手術により生命予後は改善しているが、手術後にはこれまで心臓が担ってきたポンプ機能がなくなるため、特に肺高血圧を伴う症例では、静脈の鬱滞を来し、肝臓線維化、蛋白漏出性胃腸症や血栓症などの合併症が課題となっている。
先天性心疾患をはじめとした心不全に対する補助循環治療開発の可能性
研究グループは、同大学発の細胞シート技術およびiPS細胞大量培養技術により、ヒト心筋組織開発を行い、心臓再生医療や疾患・創薬研究への応用を推進。今回、ヒトiPS細胞由来心筋シートを、免疫不全ラット下大静脈にチューブ状に移植することで、移植した心筋組織の拍動が下大静脈内圧へ及ぼす効果について検討を行った。
研究グループは、心筋シートを免疫不全ラットの下大静脈を包むように計6枚移植。下大静脈周囲には、肉眼的および超音波を用いた観察でも拍動が観察され、組織学的にも500μmを超えるチューブ状心筋組織が構築された。移植心筋組織の遠位部と近位部を結紮することで下大静脈の基礎内圧を上昇させ、ラット鼠径静脈より挿入したカテーテルを用いて下大静脈内圧を測定すると、移植心筋組織の拍動に伴う血管内の内圧変化である脈圧が観察された。さらに、下大静脈の基礎内圧上昇に伴い移植心筋組織拍動による脈圧が増大することも確認。これは、フランクスターリング則と呼ばれる、負荷の増加に伴い心拍出量が増加する生体の心臓に準じた特性を、ヒトiPS細胞由来心筋組織も有することを示すものだ。また、移植後のヒト心筋組織は、同期間培養した心筋組織に比して成熟度が高く、さらに時間依存性に成熟度が高くなることも明らかになり、分化誘導直後は幼弱であったiPS細胞由来心筋組織が生体内で成熟し、機能性が向上することが示されたという。
今回の研究は、ヒトiPS細胞由来心筋組織移植を用いた新たな循環補助治療の可能性を示すもの。単心室症に対する新たな治療法に繋がると同時に、重症心不全における心臓へのiPS細胞由来心筋組織移植においても、不全心筋を補助して直接的に機能向上に貢献すると期待されている。
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