人工呼吸器管理を要する敗血症患者を対象に臨床経過や生命予後を検証
東北大学は3月9日、人工呼吸器管理を要する敗血症患者を対象に鎮静剤「デクスメデトミジン」を利用して鎮静を行うことで、臨床経過や生命予後にどのような効果があるのかを、多施設共同・ランダム化比較対照試験を実施して検証、その結果を発表した。この研究は、同大医学系研究科外科病態学講座救急医学分野の川副友助教、弘前大学大学院医学研究科救急・災害医学の山村仁教授、兵庫医科大学臨床疫学の森本剛教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に3月21日付けで掲載されている。
画像はリリースより
デクスメデトミジンは、臨床現場では広く普及している鎮静剤。脳内のαアドレナリン受容体に作用して効果を発揮するため、他に汎用される鎮静剤と異なる特徴を有する。鎮静効果は強くはないが、鎮痛効果、交感神経興奮抑制効果を有し、動物実験では抗炎症効果を有することも報告されている。
敗血症患者では、ロラゼパムを投与した患者と比べ、デクスメデトミジンを投与した患者で生命予後が良かったとの研究が2010年に欧米から報告されているが、この研究は最初から敗血症患者を対象にした研究ではなく、ICU入室患者全体に対する研究だった。そのなかで敗血症患者のデータを抽出して解析して得られた結果は、最初から敗血症患者だけを対象にした研究よりも、そのエビデンスレベルの高さが異なる。そこで研究グループは、最初から人工呼吸器管理を要する敗血症患者だけを対象にして、よりエビデンスレベルの高い研究を計画。患者の臨床経過や予後を改善し得るのかを検証したという。
さらなる大規模研究で生命予後改善の有意差も証明できる可能性
今回の研究では、日本全国にある8つの集中治療室で2013年2月から2016年1月にかけて、人工呼吸器管理を要する敗血症患者201名に対し、100人にはデクスメデトミジンを併用、101人には併用せずに治療を行いその効果を検討。鎮静の評価において良い鎮静状態であった患者の割合を比較すると、デクスメデトミジンを用いて鎮静した方が統計学的有意差をもって質の良い鎮静であったことが明らかとなったという。また、患者の生存を比較した解析では、デクスメデトミジンを投与した群の方が良い傾向を見たが、統計学的には有意ではなかったとしている。
生命予後改善効果が確認できなかった理由として、デクスメデトミジンを併用しなかった群の予後が過去の欧米の報告よりも極めてよかったために、デクスメデトミジン併用群の効果が十分に発揮できなかった可能性が示唆されるという。今後、さらに大規模な研究を行えば、患者の生命予後を改善することが統計学的有意差をもって証明できると考えられ、敗血症の患者に対する治療法として大きな意味を持つことになる、と同研究グループは述べている。
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