アルツハイマー病進行に伴いミクログリアで発現誘導される特殊な構造を持つ糖鎖に着目
名古屋大学は3月21日、アルツハイマー病発症における主な原因のひとつ、アミロイドβタンパク(Aβ)の蓄積に密接に関わる糖鎖を発見したと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科生物化学講座分子生物学の内村健治特任准教授と門松健治教授らの研究グループによるもの。研究成果は米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に3月20日付けで掲載されている。
画像はリリースより
認知症のひとつで、半数以上の割合を占めるアルツハイマー病の脳では、Aβと呼ばれる分子が何らかの原因により重合し沈着。その結果、脳内にアミロイド斑が形成され蓄積し、神経細胞死や神経伝達に重要なシナプス構造の脱落が起こる。通常、ミクログリアと呼ばれる脳内の免疫担当細胞によりアミロイド斑は貪食除去を受けるが、この除去能力の低下によりアルツハイマー病の進行が促進されてしまう。
今回の研究では、アルツハイマー病の進行に伴いミクログリアで発現誘導される特殊な構造を持つ糖鎖に着目。アルツハイマー病の病変および認知機能低下への関与について、そのアルツハイマー病モデルマウスおよびアルツハイマー病患者脳で検討した。
GlcNAc6ST1酵素に対する阻害剤などの開発に期待
研究グループは、ケラタン硫酸と呼ばれる糖鎖に着目し解析した結果、アルツハイマー病モデルマウスの脳において、特にミクログリアの細胞表面に、病態進行に伴いケラタン硫酸糖鎖が発現誘導されることを発見。同時に、この糖鎖がシアル酸で修飾を受けた特殊な構造をもつ「シアル酸修飾ケラタン硫酸」であり、GlcNAc6ST1酵素により合成されることを明らかにした。
さらに、GlcNAc6ST1酵素を欠失することにより、シアル酸修飾ケラタン硫酸糖鎖が消失し、ミクログリアによるAβの細胞性貪食が亢進され、アミロイド斑の沈着が抑制されることを確認。また、モデルマウスだけではなく、アルツハイマー病患者脳においてもケラタン硫酸糖鎖とGlcNAc6ST1酵素の発現が亢進していることが認められたとしている。
アルツハイマー病発症の危険因子として同定された、CD33やTREM2といったミクログリア分子とケラタン硫酸糖鎖の関わりを解明することにより、発症機序の分子メカニズム解明に多大に貢献できると考えられる。また、この特殊な糖鎖を合成するGlcNAc6ST1酵素に対する阻害剤や、糖鎖中和抗体を用いたアルツハイマー病新規治療法の開発、また、この構造を指標にしたアルツハイマー病早期診断法の開発が期待されると、研究グループは述べている。
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