トランスサイトーシスに直接関与する分子群は報告されていなかった
大阪大学は2月22日、粘膜面からの抗原取り込み口であるM細胞の機能発現に直接関わる分子として、Allograft inflammatory factor1(Aif1)を同定したと発表した。この研究は、同大学微生物病研究所の佐藤慎太郎特任准教授(常勤)と、東京大学医科学研究所の清野宏教授の研究グループによるもの。研究成果は「Nature Communications」オンライン版に同日付けで掲載されている。
画像はリリースより
M細胞は粘膜を覆う上皮細胞の一種。周辺の他の上皮細胞に比べて短くて疎な微絨毛を持っており、また、粘液を産生しないことから、管腔側の外来抗原が落とし穴に入るように取り込まれやすい状況を作り出している。加えて、いろいろな微生物に対する受容体を管腔側表面に発現しており、それらの効率的な取り込みに寄与していることが報告されている。しかし、抗原を運び込むトランスサイトーシスという機能に直接関与する分子群はこれまで報告されていなかった。
M細胞による抗原取り込み能の全容解明へ
M細胞のトランスサイトーシスに直接関与する分子群を同定する目的で、研究グループは、M細胞のほとんどを欠失するSpi-B欠損マウスとそのコントロールマウスからFAEを調整し、それらの遺伝子発現を解析、比較した。そして、その中の候補遺伝子のひとつとしてAif1を同定。リアルタイムPCRにより、Aif1の発現が腸管上皮細胞系列ではFAEに特異的であり、かつSpi-Bに依存していることが確認できた。この結果がタンパク質レベルでも確認できたことから、Aif1は腸管上皮細胞系列においてはM細胞特異的発現分子であることが明らかになった。
そこで次に、Aif1の成体内での機能を詳細に解析するために、Aif1を欠損するマウス(Aif1 KOマウス)を作製。Aif1 KOマウスでは、M細胞の発達・分化に影響はなかったが、人工粒子や腸内共生細菌、病原性細菌のエルシニア・エンテロコリティカの取り込みが顕著に減弱しており、同分子がM細胞の機能に関わっていることが強く示唆された。さらに、Aif1は細胞の運動に関与するアクチンの動きを制御することで、外来抗原取り込み時に管腔側での細胞膜を変化させていることが示唆されたとしている。
一過性にAif1の発現や機能をコントロールすることができれば、粘膜型ワクチンの抗原取り込み効率を上げることや、逆に病原性細菌の感染予防を可能にすることができると考えられる。その一方で、Aif1以外のM細胞機能関連分子群の存在を示唆する結果も得ており、このことから抗原取り込み能に寄与する分子が複数存在することが予想される。今後もM細胞特異的に発現する分子を同定し、その機能を検証することで、M細胞による抗原取り込み能の全容を解明する必要があると考えられる、研究グループは述べている。
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