脊椎骨や肋骨の形成過程においてどのタンパク質が「印」を外すか
京都大学は2月17日、生まれつき重度の脊椎後弯および肋骨異形成を発症する新規遺伝子改変マウスを開発し、脊椎骨や肋骨の形を決める遺伝子群が正常に働くためには、発生過程においてそれらの遺伝子群の発現を抑制している「印」を正確に取り除く必要があることを明らかにしたと発表した。この研究は同大大学院医学研究科附属動物実験施設の成瀬智恵助教、浅野雅秀同教授、理化学研究所の若菜茂晴チームリーダー、大阪大学の伊川正人教授らの研究グループによるもの。研究成果は「FASEB Journa」に2月10日付けで掲載されている。
画像はリリースより
脊柱骨や肋骨の大きさや形は多様だが、Hox群と呼ばれる13種類のタンパク質が適切な時期と場所で働くことによって、脊椎骨や肋骨が正しく形成される。このタンパク質群が体の中に存在する時期や場所が本来の場所から変わってしまうと、脊椎骨や肋骨の異形成が引き起こされることがある。Hoxタンパク質群をコードするHox遺伝子群には、適切な時期が来るまではHoxタンパク質を作り出さないように抑制する「印」であるH3K27me3がついている。H3K27me3は、ヒストンH3の27番目のリジンがトリメチル化したもので、転写抑制性のヒストン修飾と考えられている。この「印」が外れることでHoxタンパク質が作られるようになることはわかっているが、脊椎骨や肋骨の形成過程においてどのタンパク質がH3K27me3の「印」を外すのかなどはわかっていなかった。
今後ヒトの脊椎後弯症や肋骨異形成症におけるJmjd3の役割を明らかに
研究グループは、Hox遺伝子群のH3K27me3を外すタンパク質はヒストン脱メチル化酵素のUtxおよびJmjd3の2つと考え、それぞれの機能を失ったマウスを作製した。すると、Utx欠損マウスの骨格には明らかな異常は認めらなかったが、Jmjd3欠損マウスは脊椎後弯および肋骨の異形成を示し、Jmjd3欠損マウスではHox遺伝子群の発現する時期が正常マウスに比べて遅れていることが明らかとなった。次にH3K27me3を除去する機能だけを失わせたJmjd3変異マウスを作製したところ、Jmjd3を欠損したマウスと同じ骨格の異常を示したという。これらのことから、脊椎骨や肋骨形成の時にHox遺伝子を正しく機能させるためには、Jmjd3によってH3K27me3の「印」を積極的に取り除くことが必要であることが示唆された。
ヒトの脊椎骨や肋骨の形成もHox遺伝子群で制御されていることが知られている。マウスを用いた今回の研究成果から、ヒトでもJmjd3によりHox遺伝子群の発現が制御されており、ヒトの脊椎後弯症や肋骨異形成症でもJmjd3遺伝子の変異が原因である可能性が示唆された。研究グループは今後、ヒトの脊椎後弯症や肋骨異形成症におけるJmjd3の役割を明らかにしていくとともに、Jmjd3はHox遺伝子群以外の遺伝子発現を制御している可能性もあるため、Jmjd3やUtx欠損マウスを用いてさらなる研究を進める予定としている。
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・京都大学 研究成果