多数歯欠損症の疾患責任性をモデル動物で検証
徳島大学は1月12日、多数歯欠損症にかかわるMSX1遺伝子の新規変異を検出し、ゲノム編集技術を用いてその疾患責任性をモデル動物で検証した結果を発表した。この研究は、同大学大学院医歯薬学研究部口腔顎顔面矯正学分野の田中栄二氏と、同人類遺伝学分野の井本逸勢氏、同大学先端酵素学研究所生体機能学分野の井本逸勢氏らの研究グループによるもの。研究成果は科学誌「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
歯牙欠損症は頭蓋顎顔面領域における先天性疾患。歯科領域においては齲蝕・歯周病に次いで多い疾患で、欠損が6歯以上にわたる「多数歯欠損症」においては、口唇裂・口蓋裂同様、近年その矯正治療に健康保険が適用されるなど重要な疾患と位置付けられてきた。
多数歯欠損症は、これまでに原因遺伝子がいくつか同定されてきていたが、未だに原因遺伝子不明の歯牙欠損症を有する家系や散発例が非常に多い。また、既知遺伝子であっても、その変異の疾患責任性はこれまで培養細胞系での検証しかなされておらず、小規模家系での検出変異では疾患責任性を有するのか、それとも単なる多型なのか、真偽不明の報告も散見される現状であるという。
MSX1遺伝子のC末端領域に新規変異を検出
研究グループは今回、次世代シーケンサーを用いた解析によって、多数歯欠損症を呈する家系より歯牙欠損症に関連する遺伝子変異を複数見出し、公共データベース情報を用いた検証から既知遺伝子であるMSX1遺伝子のC末端領域に新規変異を検出。MSX1遺伝子は、歯牙欠損症に関わる遺伝子として古くから同定されていたものの、C末端領域での変異の報告はほとんどなく、その疾患責任性は不明だったという。
同研究グループではさらに、疾患責任性を動物レベルで検証するため、ゲノム編集技術を用いて相同領域を破壊したマウスを作製。その結果、変異マウスにのみ下顎切歯と後方臼歯の欠損ならびに口蓋の低形成を認め、疾患責任性を証明した。このマウスでは、歯の発生停止ならびに口蓋裂を発症し、生後間もなく致死となる従来のMsx1遺伝子ノックアウトマウスとは異なる表現型が得られたという。
今回の研究結果より、さまざまな疾患における遺伝子変異検出で、小規模家系かつ動物実験での検証がないまま報告がなされて続けている現状に一定の歯止めをかける一方で、正しい診断が行われるようになることが期待できるという。同研究グループでは今後、過去に報告されてきた真偽不明の遺伝子変異や、これまでほとんど培養細胞系でしか行われてこなかった機能領域の欠失アッセイを、ゲノム編集技術を用いて動物レベルで行っていく予定としている。
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・徳島大学 研究成果