マウス網膜変性末期モデルで検証
理化学研究所は1月11日、マウス網膜変性末期モデルを用いて、マウスiPS細胞由来の網膜組織を移植することにより、光に対する反応が回復することを確認したと発表した。この研究は、理研多細胞システム形成研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトの万代道子副プロジェクトリーダーらの研究チームによるもの。研究成果は「Stem Cell Reports」オンライン版に1月10日付けで掲載されている。
画像はリリースより
網膜は光を感じ取る感覚網膜とそれを支える網膜色素上皮で構成されているが、網膜は再生力が低い組織で、障害を受けると自然な治癒は見込めない。ごく一部の原因遺伝子に対しては海外で遺伝子治療の治験が進められているが、末期の網膜変性では現在のところ人工物を用いる人工網膜以外に確立した治療法はない。2006年にiPS細胞が発見されて以来、世界中で成体幹細胞由来、ES細胞(胚性幹細胞)由来、iPS細胞由来の網膜組織を変性網膜に移植する試みが行われているが、すでに視細胞をほぼ消失した末期の変性網膜において、移植された網膜組織が成熟して光に応答し、さらにシナプスが形成されたことをはっきりと確認した報告はなかった。
研究グループは2014年にマウスのES細胞やiPS細胞から自己組織化により分化させた立体網膜組織を網膜変性末期マウスの網膜に移植すると、移植片の中の視細胞は外節構造という最終形態まで成熟することを示し、移植先の神経細胞(双極細胞)との間にシナプスを形成する可能性があることを報告している。
ヒトiPS細胞由来網膜移植でも検証、臨床研究への応用に期待
今回、研究グループは、遺伝的な標識法を用いて、網膜変性末期マウスの網膜細胞と移植片内の視細胞が接触したことを確認。また、新たに開発した視機能の評価方法により、移植後のマウスの行動パターンを解析したところ、光応答性に関わる行動パターンに変化がみられたとしている。
続いて移植後の網膜の光応答を電気生理学的に記録したところ、さらに上流の脳につながる神経節細胞からも光応答がシナプスを介して得られることを確認した。これらの結果は、自己組織化により分化した網膜組織が実際に移植素材として有効であること、さらに開発した視機能の評価方法が従来の視機能検査法では確認が困難だった部分的な視野回復の変化を捉えるのに有効な手段であることを示すものとなる。
研究グループは、2016年にヒトES由来網膜組織をラットやサルの末期変性モデルに移植すると、マウスと同様に組織学的に成熟、生着することを報告した。現在、ヒトES細胞やiPS細胞由来網膜でも視機能の検証を行っており、今後、末期変性の病態において、ヒトiPS細胞由来網膜移植によって光に対する反応が回復することを実証できれば、臨床研究への応用が期待できると述べている。
▼関連リンク
・理化学研究所 プレスリリース