2005~2010年に九州沖縄地域内28病院で早剥と診断された821人が対象
九州大学は12月9日、妊娠中に胎盤が子宮からはがれてしまう産科救急疾患である常位胎盤早期剥離と大気汚染との関係を調べたところ、大気汚染物質、二酸化窒素と早剥との関連性が示されたと発表した。この研究は、同大学環境発達医学研究センターの諸隈誠一特任准教授、同大学大学院医学研究院の加藤聖子教授、国立環境研究所環境リスク・健康研究センターの道川武紘主任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は「Epidemiology」オンライン版に12月1日付けで掲載されている。
画像はリリースより
大気汚染は、肺がんや心筋梗塞などの原因になることが報告されているが、近年、妊婦が大気汚染に曝露されることで妊婦自身の健康、お腹の子どもの健康に影響する可能性を指摘する知見が蓄積されつつある。常位胎盤早期剥離とは、通常は子どもが生まれた後に子宮壁からはがれてくるはずの胎盤が、子どもが生まれる前にはがれてきてしまう状態で、発生頻度は全妊婦の0.6%ほどと報告されている。
研究グループは、妊婦の大気汚染物質曝露が早剥と関連するのではないかという仮説をたてて、疫学的に検討。日本産科婦人科学会(周産期委員会)が実施している周産期登録事業により提供を受けた2005~2010年にかけて九州沖縄地域内28病院における匿名化登録データから、単胎妊婦(4万7,835人)の中で早剥と診断された821人を対象に、出産した病院に一番近い一般環境大気測定局(24局)で測定された大気汚染物質濃度を解析した。
早剥の発生機序の解明、早剥の発症予測や予防に期待
大気汚染の影響を受けて胎盤に影響がおよぶまで約1日、早剥発生から出産まで1日以内と見積もり、その前後(出産1~5日前)の大気汚染について、特に出産2日前の大気汚染に着目した解析を行った。その結果、大気汚染物質の中で二酸化窒素(NO2)が早剥と関連しており、NO2濃度が10ppb上昇すると早剥の発症が1.4倍程度増加する(95%信頼区間1.1~1.8)ことが明らかとなった。
まれにゆっくり進行する早剥もあるため、急激に進行して緊急対応したと考えられる緊急帝王切開での出産例にしぼった解析でも10ppb上昇に対して1.4倍(95%信頼区間1.1~1.9)、母子の状態によっては、早産にならないように出産を先延ばしにした可能性がある妊娠35週未満の出産例を除いた解析でも1.4倍(95%信頼区間1.0~2.0)という結果だった。なお、その他の大気汚染物質(浮遊粒子状物質、光化学オキシダント、二酸化硫黄)については早剥と関連していなかったとしている。
今回の研究で使用した周産期登録データは、個人が特定できないように匿名化されており、妊婦の自宅住所情報(里帰り出産の場合の実家情報を含む)がないため、出産した病院の所在地から早剥を起こした妊婦が曝露されていた大気汚染物質濃度を推定した。そのため、実際にその妊婦が曝露されていた大気汚染物質濃度とは差がある可能性がある。また。早剥が発生した日を把握できていない点や、NO2の影響ではなくNO2とともに変動する何らかの因子が影響していることも考えられるとしている。
今回の報告は世界で初めてのものであり、早剥の発生機序の解明、早剥の発症予測や予防を目指して知見の蓄積を進めていく必要があると、研究グループは述べている。
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・九州大学 プレスリリース