毎年70万人の死因となる大腸がんのグルタミン代謝の役割を調査
大阪大学は12月7日、大腸がん細胞がグルタミンを取り込んで、細胞の生存に必須な脂肪酸、タンパク質、核酸を産生し、増殖していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の今野雅允寄附講座助教、石井秀始特任教授、森正樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
近年のがん研究では、がん遺伝子やがん抑制遺伝子の異常と関連して、がん細胞の代謝が、がんの形成や進行に影響を及ぼすことが明らかになってきた。膵臓がん細胞では、がんの悪性化に関わるKRASという遺伝子の変異によってグルタミンの代謝経路が変化し、膵臓がんの悪性化に関わることが知られているが、大腸がんでのKRAS遺伝子の変異による影響は明らかではなかった。
そこで今回、研究グループは、世界で毎年70万人が亡くなるといわれている、大腸がんのグルタミン代謝の役割を調べた。その結果、研究グループは、大腸がんの細胞が生育する培地の栄養条件を変化させて、大腸がん特異的グルタミン代謝経路を明らかにしたとしている。
GLUD1、SLC25A13を標的とした薬の開発に期待
大腸がんではKRAS遺伝子の変異の有無に関わらず、グルタミンを細胞内へと取り込み、細胞の生存に必須な脂肪酸、タンパク質、核酸を産生し、増殖していることがわかった。これらの細胞の生存に必須な物質を産生する際には、細胞にとっては毒性を示す活性酸素を同時に産生してしまうことが知られているが、大腸がん細胞ではAGCという遺伝子の発現量を上昇させることで、この活性酸素を巧みに除去する仕組みを併せ持っていることも明らかとなった。さらに、グルタミン酸代謝に関わる酵素であるGLUD1およびSLC25A13の発現調整を介して栄養ストレスに適応し、がん細胞が攻撃性を増すことが明らかとなったとしている。
がんの診断では、遺伝子変異が高頻度に発生するため、DNAの塩基配列を読み取って遺伝子変異を診断(臨床シークエンス)することも重要だが、さらに、代謝を含めた多彩な側面からアプローチすることが重要であることが今回の研究から示唆された。また、グルタミン代謝における重要なタンパク質(GLUD1、SLC25A13)を標的とした薬の開発により、大腸がんに対する新しい治療法の開発が期待されると、研究グループは述べている。
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