心筋梗塞時の死細胞の貪食をMFG-E8が促進
九州大学は12月6日、心筋梗塞時の死細胞の貪食をMFG-E8というタンパク質が促進していること、さらに心筋梗塞をおこした通常のマウスの心臓にMFG-E8を投与すると、心筋梗塞後の病態が大きく改善されることを世界で初めて見出したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院薬効安全性学分野の仲矢道雄准教授と黒瀬等教授を中心とする研究グループによるもの。研究成果は「The Journal of Clinical Investigation」オンライン版に12月5日付で掲載されている。
画像はリリースより
心筋梗塞は、心臓の細胞に酸素や栄養を供給する冠動脈が動脈硬化などによって閉塞することで起こり、発症すると、閉塞した冠動脈によって酸素や栄養が供給されていた心臓の細胞は死ぬ。通常、死細胞はマクロファージなどの貪食細胞によって認識されて食べられるが、心筋梗塞時には急速に多くの細胞が死ぬため、貪食細胞による死細胞の認識と貪食の処理が追いつかない場合が多く、放置された死細胞から内容物が流出し、強い炎症が誘導され病態が悪化する。これまで、心筋梗塞時に死細胞が貪食細胞によってどのようなタンパク質を使って認識され、食べられているかについては、ほとんどわかっていなかった。
MFG-E8投与による新たな治療法開発への応用に期待
研究グループは今回、心筋梗塞時において死細胞の貪食細胞による取り込みにMFG-E8が関与することを初めて突き止めた。MFG-E8は、死細胞と貪食細胞との橋渡しをして貪食を促進するタンパク質で、正常な心臓においてはほとんど存在しないが、心筋梗塞がおこると心臓において発現量が増加するという。また、MFG-E8は筋線維芽細胞で産生され、この筋線維芽細胞がMFG-E8を介して死細胞を効率よく貪食することも明らかとなった。MFG-E8を発現する筋線維芽細胞は、マウスのみならず、ヒトの心筋梗塞患者の梗塞部位においても認められたという。
さらに、MFG-E8を欠損したマウスにおいては、通常のマウスに比べ死細胞が多く残存。その結果、強い炎症が誘導され、心筋梗塞後に心機能が悪化していた一方で、通常のマウスの心筋梗塞後の心臓にMFG-E8を投与すると、心筋梗塞後の貪食細胞による死細胞の取り込みが促進され、心臓における炎症の程度が減弱、心機能の有意な改善が認められたという。
これまでに心筋梗塞後の死細胞の除去に着目した心筋梗塞の治療法はないが、MFG-E8の主な機能は、貪食細胞による死細胞の除去の促進であることから、その投与による生体への副作用は少ないと予想されるという。今回の研究は心筋梗塞に対する新たな治療法や治療薬開発への応用が期待されると研究グループは述べている。
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