欧米でIDHの酵素活性を標的とした治療法開発、一部は臨床試験も
大阪大学は11月8日、がん細胞で産生されるオンコメタボライトD-2HGが大腸がんの転移を促進することを発見したと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科消化器外科のヒュー・コルビン大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」に公開された。
画像はリリースより
近年のがんの研究では、がん遺伝子やがん抑制遺伝子の異常と関連して、がん細胞の代謝が、がんの形成や進行に影響を及ぼすことが明らかになってきた。
脳腫瘍や白血病の細胞では、エネルギー代謝に関与するイソクエン酸脱水酵素(IDH)の遺伝子が変異し、2-ヒドロキシ・グルタール酸(2HG)が大量に蓄積される。2HGは、細胞をがんへと導く「造腫瘍性代謝物(オンコメタボライト)」として知られている。欧米では、IDHの酵素活性を標的として、オンコメタボライトの蓄積を防ぐことにより、がんの進行を抑える治療法がいくつか関発され、一部は臨床試験が行われている。一方で、腎臓がん(腎細胞がん)では、IDHの遺伝子変異の頻度が低いようながん細胞にも、このオンコメタボライトが微量ながら存在していることが報告されている。
大腸がんについても、細胞内のさまざまな代謝産物の濃度に異常がみられることがわかっていたが、代謝産物の濃度変化が単に病気の結果として表れているのか、それがさらに病気の進行を促進する役割をもつのかについては明らかではなかった。
がんの代謝メカニズムに焦点を当てたがん転移の新しい診断法や治療法の開発に期待
研究グループは今回、毎年世界で70万人が亡くなると言われている大腸がんについて、2HGの役割を調べた。その結果、大腸がんの細胞にオンコメタボライトである2HGが蓄積していることがわかった。また、この蓄積した2HG(D/L異性体)のうち、D型の2HG(D-2HG)は、エピゲノム(遺伝子の発現制御)の変化を誘導して、上皮‐間葉転換(EMT)によって周りの細胞に浸潤し、血流に入り、離れた組織へのがん転移を引き起こすことを見出したとしている。
さらに、臨床検体から得られたがん細胞を用いて、IDHの変異のない場合でもD-2HGの濃度が通常の細胞と比べて高いこと、D-2HGのレベルが高いほどがんのステージが高く遠隔転移している確率が高いことを示した。
これらの研究結果から、今後は遺伝子の変異に加え、がんの代謝メカニズムにも焦点を当てることにより、がん転移の新しい診断法や治療法の開発が期待されると、研究グループは述べている。
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