年間68万6,000人がHBV起因の疾患で死亡
理化学研究所は10月28日、がん組織および周辺組織におけるB型肝炎ウイルス(HBV)の遺伝子発現パターンを明らかにし、これまで知られていなかった転写開始点を発見したと発表した。この研究は、理研ライフサイエンス技術基盤研究センタートランスクリプトーム研究チームのピエロ・カルニンチチームリーダーと橋本浩介専任研究員らの研究チームによるもの。研究成果は、米国の科学雑誌「Journal of Virology」に掲載されるのに先立ち、オンライン版に9月28日付けで掲載されている。
画像はリリースより
HBVは肝臓がんの主要な原因であり、世界中で年間約68万6,000人がこのウイルスに起因する疾患で死亡していると推定されている。治療には、ラミブジンやエンテカビルなどウイルスの増殖を抑制する複数の抗ウイルス薬が使用されているが、ウイルスを体内から完全に排除することはできず、慢性的な肝臓疾患の原因となっている。HBVのゲノムはコンパクトで、遺伝子が4つしかないにもかかわらず、がん組織中におけるウイルスの詳細な遺伝子発現パターンはこれまで知られていなかった。
X遺伝子上に異なるウイルスタンパク質を作る転写開始点を発見
研究チームはこれまで、理研の独自技術であるCAGE法を用いて、さまざまな細胞でのRNAの発現を網羅的・定量的に解析してきた。その成果として、ゲノム中に存在する内在性レトロウイルスに由来するLTR配列が、肝細胞がんにおいてノンコーディングRNA(ncRNA)として発現していることを明らかにしている。今回の研究では、前回と同じサンプル・技術を用いて、外来性のウイルスであるHBVの網羅的な発現解析を試みた。
研究チームは、肝臓がんの一種である肝細胞がんの組織、がん化していない周辺組織、血液、および4種類の実験モデルシステムにおけるウイルスの遺伝子発現パターンを解析し、1塩基単位の詳細な転写マップを作成。これにより、ウイルスの増殖に重要な「X遺伝子」上にこれまで知られていなかった転写開始点を発見し、異なるサイズのタンパク質が作られていることが判明した。また、実験モデルシステムと実際の肝臓がん組織におけるウイルスの活性の類似性や違いも明らかにしたとしている。
今回得られたHBVの網羅的な転写マップは、抗ウイルス薬の開発・評価においてウイルスの転写活性を研究するためのリソースとして活用できるため、新しいHBV治療薬の開発への貢献が期待できると、研究チームは述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース