臓器移植より簡便なのに細胞の生着率が低い
東北大学のグループは膵島の細胞移植治療に利用する免疫抑制剤タクロリムスが移植後、膵島周囲の栄養血管網の新生構築を阻害することを明らかにした。今後の細胞移植治療に有用な知見と考えられる。
重症の糖尿病に膵島移植の細胞移植治療を行う。膵臓移植などの臓器移植治療に比べ、細胞移植は全身麻酔や開腹手術が不要、点滴の要領で短時間に終了するため、安全・簡便・低侵襲と期待される。一方で移植後の細胞の生着率の低さなど課題も多く、臓器移植より治療効果が弱いとされる。
同種細胞移植(亡くなった他人からの移植)は自家細胞移植(自分の細胞を戻す移植)より長期的な生着率が低い。同種細胞移植で使う免疫抑制剤が原因と目され、ラバマイシンの血管新生抑制効果が最近わかった。シロリムスも血管構築阻害効果など副作用をもつ。現在、安全性が高いとタクロリムスが使われるが血管新生に及ぼす影響は未検証だった。
タクロリムスも血管構築を阻害していた
タクロリムスが移植膵島の血管新生に及ぼす影響を高感度イメージングシステムで調べた。マウスの背中に観察窓を装着し皮下の血管新生状況を経時的に観察するdorsal skinfold chamberモデルと組織透過性が高い近赤外線のパルスレーザーで体内深く(約1mm程度)まで組織を観察する二光子顕微鏡を用いた。また顕微鏡にレーザー照射装置を接続して組織切片の小さな領域を切り出すレーザーマイクロダイセクションで遺伝子発現の変化を解析した。
その結果、移植後14日以内に血管新生が完了し、タクロリムスの投与で新生血管体積が減少した。遺伝子発現の変化を調べると、血管誘導因子は上昇したが細胞周期への影響は確認されなかった。
以上から、タクロリムスは移植膵島からの血管誘導因子の放出制御を介さずに血管新生を抑制することが明らかになった。つまりその阻害効果を考慮して免疫抑制療法を至適化すれば、同種細胞移植療法の成績は改善することが期待できる。(馬野鈴草)
▼外部リンク
東北大学プレスリリース
http://www.tohoku.ac.jp/