一般の医療施設で診断可能なバイオマーカーの確立望まれる
大阪市立大学は10月17日、原因不明の疾患である慢性疲労症候群(CFS)の客観的診断に有効なバイオマーカーを発見したと発表した。この研究は、同大学医学研究科システム神経科学の山野恵美特任助教、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センターの渡辺恭良センター長と片岡洋祐チームリーダー、関西福祉科学大学健康福祉学部の倉恒弘彦教授、慶應義塾大学先端生命科学研究所らのグループによるもの。研究成果は、英国のオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に10月11日付けで掲載されている。
画像はリリースより
CFSは、原因不明の強度の疲労・倦怠感により半年以上も健全な社会生活が過ごせなくなる病気。通常の診断や従来の医学検査では、CFSに特徴的な身体的異常を見つけることができず、治療法も確立していない。その原因として、ウイルスや細菌の感染、過度のストレスなどの複合的な要因が引き金となり、神経系・免疫系・内分泌代謝系の変調が生じて、脳や神経系が機能障害を起こすためと考えられているが、発症の詳細なメカニズムはわかっていない。
1988年に米国疾病予防管理センター(CDC)がCFSに関する報告を行って以降、そのメカニズムの解明、バイオマーカーの探索、治療・予防法の開発を目的にさまざまな研究が行われてきた。これまでに、ウイルスの活性化や自律神経機能異常を指標としたものなどがCFSのバイオマーカーとして提案されてきたが、これらはCFSの病態メカニズムに則したものではなかったり、CFSの専門医でないと診断が難しいといった問題があった。そのため、よりCFSの病態メカニズムを反映し、CFSの客観的な診断を一般の医療施設でも可能にするバイオマーカーの確立が望まれていた。
ピルビン酸/イソクエン酸、オルニチン/シトルリンの比が健常者より高く
今回、研究グループは、CFS患者の血漿成分中に特徴的な代謝物質が存在することをメタボローム解析(代謝物質の網羅的解析)により明らかにした。これらの代謝物質を詳しく分析した結果、CFS患者では細胞のエネルギー産生系および尿素回路内の代謝動態に問題があることや、血中の代謝物質の濃度が疲労病態を反映している可能性が示唆された。さらに、代謝物質のうちピルビン酸/イソクエン酸、オルニチン/シトルリンの比が患者では健常者と比べて有意に高いことから、これらがCFSの客観的診断に有効なバイオマーカーとなりうることがわかったとしている。
今後は、同研究で発見した代謝物質の比によるCFS患者群と健常者群の判別が、異なる背景(人種など)をもつ集団にも適用しうるか、さらに検討する。また、CFSを発症していない慢性的な疲労の自覚がある人のサンプルを用いて解析を行い、詳細な疲労病態の解明に向けて、さらに検証を加えていく必要がある。その上で、診断バイオマーカーとなりうるこうした代謝物の濃度比を一般の医療機関でも検査できるよう、医療システムを構築していきたいとしている。また、今回の研究成果によって判明したCFSの代謝病態を是正するような食薬の開発も期待されると、研究グループは述べている。
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